全日本ラリー選手権が開幕。雨が波乱を呼んだ一戦は、新井敏弘WRX STIが制す!

レポート ラリー

2021年4月6日

3月19~21日、愛知県で新城ラリーが開催され、今年の全日本ラリー選手権が幕を開けた。

2021年JAF全日本ラリー選手権第2戦
新城ラリー2021 supported by AICELLO

開催日:2021年3月19~21日
開催場所:愛知県内
主催:MASC

 2021年の全日本ラリー選手権は当初、2月上旬に群馬県で行われる「ラリー・オブ嬬恋」で開幕の予定であったが、新型コロナウイルス感染症拡大第3波の状況を鑑み、中止を余儀なくされた。今回の新城ラリーは愛知県の緊急事態宣言解除後の開催となったが、未だ収束には程遠い情勢であることなどから、今回も無観客ラリーとして開催される形となった。また今回のラリーの拠点となった新城総合公園に入場するすべての新城ラリー関係者に、健康調査表の記録および提出を求めるなど、万全な感染防止対策が図られた。

 今回のラリーはまずLEG1では昨年、初めて設定された舟着5.97kmと、お馴染みの高速ステージ、鬼久保8.86kmを2回ずつ走行。LEG2では、新城ラリーの代名詞と言える雁峰ステージの北側を使用する雁峰北12.65kmを2回と、再び鬼久保8.86 kmを2回走る、計8SS、総距離72.68kmのステージが用意された。鬼久保は一部、下り区間も使用するため、これまでよりも距離が長くなっている。なお今回は、この下り区間の速度が乗るストレートでは減速を促すシケインが設置されている。

 JN1クラスは、トップドライバー達のマシンチェンジが相次ぎ、大きな話題を集めた開幕戦となった。まず昨年の最終戦、ツール・ド・九州in唐津で、GRヤリスを全日本ラリーにデビューさせた柳澤宏至、福永修両選手が、ともにFIA R車両であるシュコダ・ファビアR5で参戦。そして注目のGRヤリスは、TOYOTA GAZOO Racingが勝田範彦、眞貝知志という強力な2枚看板で、JN1クラスへ参入を開始することになった。

 さらに2019年のJN3クラスチャンピオンである山本悠太選手もJN1にステップアップし、初めて最高峰のクラスでハイパワー4WDをドライブすることになった。なお昨年のこのラリーを制し、今回も優勝候補に挙げられていたランサー勢の雄、奴田原文雄選手は不出場。その動向が注目されていたが、今季からGRヤリスにスイッチ。第3戦唐津から、ADVANカラーを纏ったGRヤリスのステアリングを握る予定となっている。

 注目のラリーの行方は、ファビアR5勢がLEG1から前評判通りの速さを見せつけた。まずSS1から福永修/齊田美早子組が3連続ベストを奪うと、この日の最終SSとなるSS4鬼久保では柳澤宏至/保井隆宏組がベストと、2台のファビアR5がLEG1を完全制圧したのだ。しかし福永組はSS4でパンクを喫して大きくタイムロスしたため、舟着SSで福永組にコンマ差で食らいついた鎌田卓麻/松本優一組のスバルWRX STIがトップで折り返し、柳澤組が3.6秒差で続いた。

 一方、GRヤリス勢は、初陣となったTOYOTA GAZOO Racingの2台がともにマシントラブルでLEG1から戦線離脱を余儀なくされるという波乱のスタートになった。唯一、生き残った山本悠太/立久井和子組もパンクに見舞われるなどの不運もあって、クラス6位で折り返した。

 明けたLEG2は前日の好天から打って変わって前夜から断続的に降り続いた雨のため、路面はフルウェットコンディションに。この日最初のステージである雁峰北のSS5から、各クルー、水しぶきを激しく上げながらのアタックとなったが、ここでは鎌田組が2番手の新井敏弘/田中直哉組を大きく引き離すベストをマークする。独走態勢を築いたかに見えた鎌田組だったが、続くSS6鬼久保で、フィニッシュまであと僅かという地点でリタイヤを余儀なくされてしまう。

 ラリーはこのSS6の進行時に雨脚が強まり、走行路面状況の悪化が危険と判断されたことから、SS7とSS8のキャンセルを決定。セレモニアルフィニッシュ等の表彰も中止となる慌ただしい展開の中、終了となった。またSS6のアクシデントにより、後続のクルーには同一のタイムが与えられたため、後続のクラスは実質的にはSS5までのタイムを以て勝敗が決する形となった。

 JN1クラスではSS5で2番手に浮上していた新井敏弘組が優勝。LEG1から昨年のチャンピオン、新井大輝/小坂典嵩組はLEG1からマシン不調が続いたものの、2位まで挽回してゴールした。R5勢は福永組が3位、柳澤組が4位というオーダーでゴールした。

 WRX STIそして親子で1-2フィニッシュ達成と、最高の滑り出しとなった新井敏弘選手は、「食らいつけたSSもあったけど、ファビアはやはり予想通りの速さだった」とライバルの手強さを改めて実感した様子。「自分のクルマも去年の唐津の前にかなり良くなったんだけど、今回は路面が違った分、また煮詰めきれなかった所が出た感じですね。ただ、WRX STIも、まだ速くなれる要素も見つけられたので、次戦以降にフィードバックしていきたい」と最後は意欲を覗かせていた。

昨年のJN1チャンピオン、新井大輝/小坂典嵩組はLEG1の4位から順位を盛り返し、2位でフィニッシュした。
LEG1で3本のSSベストを奪った福永修/齊田美早子組はJN1クラス3位で初戦を終えた。
鬼久保SSでベストをマークした柳澤宏至/保井隆宏組はJN1クラス4位でフィニッシュ。

 JN2クラスは、昨年の鬼久保で圧倒的な速さを見せた石井宏尚/竹下紀子組のレクサスRC FがSS1舟着からベストを奪う快調な滑り出し。SS2鬼久保でも順当にベストを奪い、リードを広げる。しかしSS3からヘイキ・コバライネン/北川紗衣組のGT86 R3が反撃を開始。ここでこの日、最初のベストを奪うと、2度目の鬼久保となったSS4では石井組を凌ぐどころか、総合でも3番手に入るタイムを叩き出して、5.6秒差まで詰めて折り返すと、LEG2のSS5雁峰北では石井組を大差で下すタイムをマーク。一気に逆転を決めて、2019年最終戦以来の勝利を獲得した。

 JN3クラスでは、昨年のこのラリーの覇者、竹内源樹/木村悟士組のBRZが首位で折り返したが、SS5で、前日まで2番手につけていた鈴木尚/山岸典将組が、竹内組を20秒以上も凌いで首位に立ち、逃げ切った。ディフェンディングチャンピオンの曽根崇仁/竹原静香組もここで2位に浮上してゴール。竹内組は2連覇ならず、3番手でラリーを終えた。

JN2クラスは、ヘイキ・コバライネン/北川紗衣組が一昨年の最終戦以来となる勝利を挙げた。
LEG1は首位で折り返した石井宏尚/竹下紀子組は逆転を許し、2位に留まった。
JN3クラスは鈴木尚/山岸典将組が、2018年最終戦以来、BRZでは3度目となる優勝を獲得。「LEG1の鬼久保で引き離されずについて行って、LEG2の雁峰北の勝負に持ち込むという当初の予定通りの展開に持ち込めました。SS5を溝のあるタイヤで行ったのが勝因ですね。新しいシーズンになって気持ちを入れ替えできたのも良かったと思います。今年はあまり目を吊り上げずに(笑)、ラリーを楽しんでいければと思っています」(鈴木選手)。
JN3のディフェンディングチャンピオン、曽根崇仁/竹原静香組は2位まで挽回してゴール、とまずまずのスタートを切った。

 SS5の雁峰北は12.65kmと今大会、最長のステージ。なおかつフルウェットという難コンディションが、他のクラスでも雨を味方につけたクルー達が逆転劇を呼び込んだ。JN4クラスでは西川真太郎/本橋貴司組がチームメイトでもある須藤浩志/廣田幸子組をSS5で逆転して首位に立ち、そのまま逃げ切って待望の全日本初優勝を達成。JN6クラスでは昨年、TRD RALLY CUPでチャンピオンを獲得した吉原將大/佐野元秀組が、やはりSS5で昨年のチャンピオン、明治慎太郎/里中謙太組を逆転して、全日本デビューウィンの快挙を成し遂げている。

 一方、JN5クラスもSS5がヤマ場になったが、終わってみればトップ3台が1.4秒の間にひしめくというハードなバトルとなった。勝利をもぎ取ったのはLEG1を2位で折り返した大倉聡/豊田耕司組のヴィッツCVT。SS5で、前日首位の天野智之/井上裕紀子組を5.3秒凌いで、僅か0.6秒という僅差で逃げ切った。このSS5で圧巻のベストを奪ったのは、昨年の最終戦を制した小濱勇希選手のヤリスのステアリングを受け継いだ内藤学武/小藤桂一組。天野組に0.8秒及ばなかったものの、ヤリスのポテンシャルを再び証明する形となった。

JN4クラスでは西川真太郎/本橋貴司組が全日本初優勝。得意とする雁峰北で狙い通りにライバルを引き離せたことが勝利を手繰り寄せた。
JN4を制した西川選手(左)は、「全日本4年目でやっと勝てました。昨日、ボロ負けした鬼久保がキャンセルになるという運もありましたが、今日は大好きな雁峰北でタイムが出せて良かったです(笑)。ただ雁峰北は実は後半、バテてしまって、どうかなと思ったんですけど、それでも大差を付けられたのはタイヤのお陰ですね。今後は、特に広い道の走り方を身に着けて、どんな道でも速く走れるドライバーになりたいですね」。同じく全日本初優勝の本橋選手は、「雨が味方してくれた、としか言いようがないですが、これもラリーだと思うので嬉しいです。ただ途中でキャンセルになっての優勝なので、あまり実感がないんです。今度は最後までラリーを走り切って、また勝ちたいと思っています」と振り返った。
JN4クラス2位にはチームメイトに逆転を許してしまった須藤浩志/廣田幸子組が入賞。
コンマ秒差のホットバトルとなったJN5クラスは、大倉聡/豊田耕司組が、昨年のラリー北海道以来となる勝利を挙げた。
幸先の良い滑り出しを見せた大倉選手(左)は、「運も味方してくれましたが、今回はドライのターマックでも勝負できたことが勝利に繋がりましたね。僕自身は一戦一戦、勝利することに集中して走っていただけですけど、振り返るとマシンが凄く進化している。その結果の優勝だと思っています」と振り返った。
JN5クラスの絶対王者、天野智之/井上裕紀子組は、勝負所の雁峰北でライバル達に先行を許し、0.6秒という僅差で2位に甘んじた。
JN6クラスでは、今回が全日本のデビュー戦だった吉原將大/佐野元秀組が、初戦で初優勝達成という快挙を挙げた。
「クルマもタイヤも初めてだったので不安が大きかったですけど、何とか走り切れてよかっです」という吉原選手(左)。「昨日のセクション1は凄く緊張しましたが、何とか明治さんに食らいついて行けたので、セクション2からは落ち着いて走れました。今日もプッシュとまでは行かなかったですが、抑え過ぎもしない、ちょうどいいペースで走れと思います。最後はタイヤの差で勝てたラッキーな勝利だと思ってますので、今後はタイヤも含めたクルマの理解や、勝負の駆け引きなどの引き出しを増やしていければと思っています」と振り返った。同じく初優勝の佐野選手は、「ドライバーの力に助けられましたが、このコンディションの中、走り切れて勝つことができたのが、学生時代から二人で積み上げてきたペースノートによる部分も大きかったと思うので、正直、嬉しいです」。
JN6のディフェンディングチャンピオンの明治慎太郎/里中謙太組は逆転を許して2位。ヤリスでの初優勝は次戦以降に持ち越しとなった。

フォト/中島正義、山口貴利、JAFスポーツ編集部 レポート/JAFスポーツ編集部

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