D1GP2020シリーズチャンピオンは小橋正典選手

レポート ドリフト

2021年2月5日

2021シーズンが20周年となるD1グランプリ。だが、2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響でスケジュールに変更があり、最終戦連戦の筑波ラウンドが年を跨いでしまうという異例の事態となった。

2020 D1グランプリシリーズ第7戦&第8戦 2020 TSUKUBA DRIFT
開催日:2021年1月30~31日
開催地:筑波サーキットコース2000(茨城県つくば市)
主催:株式会社サンプロス

 第6戦終了時でシリーズランキング首位に着けていた小橋正典選手(LINGLONG TIRE DRIFT Team ORANGE)は、ランキング2番手の藤野秀之選手(Team TOYO TIRES DRIFT-1)に32ポイントの大差をつけていたが、連戦となる最終戦の筑波ラウンドでは何が起きるかわからない。

 筑波ラウンドではセクターを5つに区切り、3つのゾーン(イン&アウトクリップ)が設けられた。最終コーナーの入り口(ピットレーン入り口付近)からスタートして、ストレートを振り返し、1コーナーを抜けると一度車両姿勢はまっすぐに戻る。S字でまた振り出して振り返し、第1ヘアピンを立ち上がるまでが審査区間だ。

 メインストレートをS字のように振り返しながら1コーナーに進入する“高速卍”がお約束。3回の振りで1コーナーに到達する走行スタイルは「ストレート3発」とも呼ばれ、その進入ポイントでの最高速は150km/hに達する。

 またメインストレートにはスポンジバリアが置かれてラインが指定され、ピットレーンとのあいだのコンクリートウォールのギリギリにアウトクリップの指定枠が設けられた。高得点を狙うのがいかにデンジャラスかわかるだろう。

メインストレートに設けられたスポンジバリアへのアプローチも重要なポイントとなった。2つめののスポンジバリアにはピットレーン側にアウトクリップの指定枠も。
5つのセクターで構成された、審査区間の長い筑波ラウンド。ハイスピードとテクニカルの両方を要求されつつ、3か所に設けられた通過指定ゾーンもクリアしなければならない。

 D1ストリートリーガル(D1ライツの前身カテゴリー)でチャンピオンを獲得してD1GPにステップアップした中村直樹選手(Crystal H.E VALINO N-style)は、SR20DETエンジン時代を経て2JZ改3.4リットルを搭載するようになると成績が低迷。今年は2度のエンジンブローを喫していた。

 今回の中村選手のS15シルビアは、3.1リットルに排気量ダウンしたエンジンを搭載。製作コストが低く抑えられたことで「いままでよりも思い切って踏める」と練習走行から好調、100点満点で単走優勝を獲得した。D1GPで中村選手が100点をマークしたのは初だ。

第1&第2セクターで満点オーバーをマークし100点獲得で今季2度目の単走優勝を果たした中村直樹選手。1コーナー進入時の速度は151km/hだった。
単走ランキング首位の藤野秀之選手は最終戦を前にその差を2ポイントに詰められ、ベスト16追走では末永直登選手にプッシングされ大破。ベスト8進出となったが走行不能でリタイア。

 追走の準決勝では大波乱が起きた。中村選手と田中省己選手(SEIMI STYLE DRIFT SAILUN)の戦いに中村選手が勝つと、次は横井昌志選手(NANKANG TIRE DRIFT TEAM D-MAX)と小橋選手の直接対決。なおチャンピオンの可能性を持つのは小橋選手、藤野選手、横井選手の3名で、大逆転の可能性も残されている状況だ。

 1本目で後追いの横井選手に大きなアドバンテージを取られた小橋選手は、入れ替わった自身の後追いターンで気負いすぎたのかS字でプッシング。ここで敗退となったのだが、当てられた横井選手の足回りのダメージは大きく、修復にはかなりの時間がかかる。チームはここで苦渋の判断を下しリタイア。

 そして中村選手の優勝が決まると同時に、最終戦の第8戦を待たず、準決勝の結果で小橋選手がD1史上12人目のチャンピオンに決定した。

準決勝での小橋選手VS横井選手は1本目が99対106(98+後追いポイント8)で横井選手が大きなアドバンテージを獲得。追い詰められたか、小橋選手はS字で攻めすぎてしまった。
準決勝で田中省己選手と対戦した中村選手は、先行では少しずつ引き離し、後追いでしっかり寄せて勝利。続く決勝は「すごい残念」とコメントを残しつつ不戦勝で優勝となった。
第7戦の表彰式。左からチャンピオンを決めた3位の小橋選手、1位の中村選手、2位の横井選手が表彰台に登壇。
第7戦の優勝は中村選手、2位は横井選手、3位は小橋選手、4位は田中選手、5位は北岡裕輔選手、6位は日比野哲也選手、7位は藤野選手、8位は末永正雄選手、9位は内海彰乃選手、10位は末永直登選手。

 小橋選手のチャンピオンが決定した翌日は、シリーズ最終戦となる第8戦が開催された。審査区間は前日と同じで、第7戦のクラッシュでダメージを負った車両も練習走行開始までには修復されて出走台数は変わらず。

 予選を兼ねる単走は藤野選手、横井選手のトップ2ばかりか、小橋にも単走タイトルの可能性が残されており、競技は開始直後から目が離せない状況となった。またシリーズランキングのトップ3争いにも決着がつく、文字通り最終決戦となった。

第7戦の追走トーナメントで車両にダメージを負った選手たちも修復が間に合い、単走シリーズチャンピオン争いに熱が帯びた第8戦となった。

 16台までが追走に残れる単走予選。第1戦で優勝しているGRスープラの川畑真人選手(Team TOYO TIRES DRIFT-1)は、この筑波は2戦連続で16位通過。見る者をヒヤヒヤさせた。GRスープラのハンドリングはいまだ完成とは言えず、ハイスピードの振り返しから距離のある1コーナー進入でその弱点が露呈したカタチとなった。

 一方、年間最多賞を獲得した経験もある2018年、2019年チャンピオンの横井選手は、今シーズンはふるわず1勝もできなかった。単走も一度も優勝できなかったのだが、常にトップ争いに食い込み、最終的に単走シリーズチャンピオンを獲得した。

 その横井選手と藤野選手が走行を終え、結果、単走ランキングは横井選手の暫定トップに入れ替わった。さらに最後の走行組で小橋選手が出走するといきなり1本目で99.6点をマークし、単走優勝を果たした。これにより小橋選手は単走シリーズランキングでも藤野選手を追い越し2位に食い込んだ。

前日の単走覇者である中村選手を上回るドリフトで優勝を決めた小橋選手。このときの最高速は158km/hで、2日間を通じてトップのスピードだった。
第7戦終了時点で2ポイント差で藤野選手を追いかける横井選手は4位フィニッシュ。これにより逆転チャンピオンとなった。
「自分は追走が好きで、単走も重要だと気づいたのはここ最近です。うまく組み立てられるようになってきたかなと」と語る横井選手。

 迎えた追走トーナメント決勝では、中村選手が後追いの1本目で見事な追走を見せ、後追いポイント10を獲得。これで圧倒的アドバンテージに立ったかと思われたが、入れ替わった2本目、小橋選手は審査区間の全域で接近して今大会最高の後追いポイント11を獲得して逆転優勝。

 これで小橋選手は最終戦を単走&追走のダブル優勝で終え、シーズン5勝目を挙げた。これは過去に年間5勝を挙げた齋藤太吾選手(FAT FIVE RACING)に並ぶ歴代タイの記録となった。

小橋選手は後追いでS字からヘアピンまで中村選手にぴったり合わせ込んで逆転優勝となった。シーズン5勝目を挙げ、シリーズを有終の美で飾った。
ストリートリーガル時代に苦しめられた中村選手を下しての勝利に、全身で喜びをあらわにした小橋選手。中村選手も惜しみない拍手で小橋選手を称えた。
シリーズチャンピオンチームとなったLINGLONG TIRE DRIFT Team ORANGEの熊久保重信監督。セクター1の車速の伸びに影響するスポンジバリアの通過方法が勝敗のキモと分析、小橋選手の勝利を早々に確信したそうだ。
第8戦の優勝は小橋選手、2位は中村選手、3位は齋藤太吾選手、4位は横井選手、5位は松山北斗選手、6位は蕎麦切広大選手、7位は田中選手、8位は末永正雄選手、9位は松井有紀夫選手、10位は北岡選手。

フォト/SKILLD川﨑隆介 レポート/SKILLD川﨑隆介、JAFスポーツ編集部

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