プロフェッショナルは久保凜太郎選手が、OPENクラスは岡田整選手が、感涙のタイトル奪取!

レポート レース

2020年12月9日

スーパー耐久シリーズと併せて、GR 86/BRZレースの最終大会がツインリンクもてぎで11月21~22日に開催された。すでに鶴賀義幸選手のチャンピオンが確定しているクラブマンシリーズEXPERTクラスを除く2クラスでは、壮絶なタイトル争いが繰り広げられた。

TOYOTA GAZOO Racing 86/BRZ Race 2020 第7戦
(ピレリスーパー耐久シリーズ2020第4戦内)
開催日:2020年11月21日~11月22日
開催地:ツインリンクもてぎ(栃木県茂木町)
主催:株式会社モビリティランド、M.O.S.C.

 クラブマンシリーズOPENクラスのチャンピオン候補は、西澤嗣哲選手と岡田整選手のふたりのみ。西澤選手が7.5ポイント差でリードしているだけに、逆転を目論む岡田選手はポールポジションを獲得すると与えられる1ポイントがまず欲しいところだ。予選で第一目標が叶ったかと思いきや、四輪脱輪のペナルティでベストタイムが抹消されてしまう。しかし、不幸中の幸いだったのは、セカンドベストタイムでは2番手につけていたこと。ポールポジションは咲川めり選手に奪われてしまったが、フロントローに並んだ。それに対して西澤選手は3番手スタート。もし、このポジションが決勝でも保たれたなら、西澤選手の逃げ切りとなる。

 岡田選手はスタートを決め、咲川選手をかわしてトップに浮上。だが、西澤選手は3番手のポジションをキープするレース運び。ファステストラップを記録して1ポイントが加えられれば、岡田選手に逆転の芽はない。2周目にはトップを争うふたりと、3秒差になった西澤選手はファステストラップ狙いで間隔を広げたかに思われた。しかし実際には……。西澤選手のタイヤとS耐のラバーがマッチせず、ペースを上げたくても上げられない状況になっていたのだ。そして西澤選手は3周目に佐藤純一選手にかわされ、すでに夢破れていた。

 そんな後方の事情を知る由もなく、岡田選手と咲川選手は最後まで激しくトップを争い、僅差ながらも岡田選手が逃げ切りに成功。初優勝がチャンピオン確定のレースにもなった。「めちゃくちゃ嬉しいですよ。3年かかってやっと優勝できたので。勝ってチャンピオン、本当に良かった」と岡田選手。さらにこう言葉を重ねた。

「予選からなんでこうなっちゃうのかなっていうのがあって。四輪脱輪の感覚は全然なかった。でも、どんなタイムが出ても最初から2周アタックするつもりでいて、だから2周行っていて良かった。2番手と3番手であれば、チャンピオンは向こう(西澤選手)というのはもちろん意識していたから、得意のスタートで行くしかないと。行けて良かった。コースの中では咲川さんしか見えていなかったから、『頼むから、抜かれていてくれ』って(笑)」と岡田選手。ゴール後には笑顔を見せていたが、師匠の織戸学選手から手を差し伸べられると、思わず涙を流す一幕も。「もう大好きなんです、お父ちゃんみたいなもんで」と感極まっていたのは、そういう理由による。

予選から決勝までチャンピオン争いが紙一重の展開となったOPENクラスは、初優勝を決めた岡田整選手がチャンピオンを確定させた。
クラブマンOPENクラスの表彰式。左から2位の咲川めり選手、1位の岡田選手、3位雄の佐藤純一選手。

 クラブマンシリーズのEXPERTクラスでポールポジションを獲得したのは、FIA-F4に参戦中でこのレースに初参戦の伊東黎明選手だった。「4月に別のクルマで一回だけ1時間乗らせてもらったんですが、その時も感触は悪くなかったんです。そのイメージのまま今回のレースウィークに臨んで、走るにつれて86の乗り方、理解も深まっていきました。決勝は初めてのハコ車レースなので、タイヤのタレ具合などF4とは違うでしょうが、自分のベストを尽くしてデビューウィンを狙います」と力強く語っていた。2番手がチャンピオン確定の鶴賀義幸選手で、3番手は久々登場の松沢隆弘選手。余談ながら、この3人はいずれもスーパーFJの卒業生である。

 決勝では鶴賀選手が絶妙のスタートで、伊東選手をかわしてトップに立つが、そのまま逃げることは許されず。そればかりか、3周目の4コーナーで伊東選手に抜かれてしまう。一時は一騎討ちになるかと思われたが、そこに迫ってきたのが4番手スタートの神谷裕幸選手。やはり3周目に松沢選手をかわすと、トップ争いを3人で繰り広げるように。そして6周目の鶴賀選手のシフトミスに乗じ、神谷選手が2番手に浮上。だがその後は神谷選手が伊東選手に近づくことはかなわなかった。

「スタート練習は金曜日に二回しただけで、自信がなかったので最低限のミスに留められて良かったんですが、2番手に落ちてしまって。でも、自分の方がペースはいいのが分かったので、早めに仕掛けることができました。その後は自分のミスもあって、なかなか引き離すことができず、バトルする展開になってしまいました。タイヤが落ちてくるのを相談しながら走り方も変えていた甲斐あって、後半は離すことできて、そのまま優勝できて良かったです。予選トップに立った時点で、チームの先輩である川合孝汰選手が開幕戦のプロクラスでデビューウィンを飾っていて、自分も続いていきたいなという気持ちがあったので、それを達成できて良かったです」と伊東選手。

 一方、鶴賀選手にとってもてぎはホームコース。チャンピオン確定後のレースで有終の美を飾れなかったが、「ミスがたくさんあった週末でしたが、スタートは経験と意地でした。一回抜かれちゃうとペースが上がらなくて。前戦で決めておいて良かったという気分と、全力は出し切れたという思いが今は半々です。来年はプロフェッショナルシリーズを予定しています」と晴れやかな表情で語っていた。

スーパーFJのドライビング経験のある3選手の争いとなったEXPERTクラスは、86/BRZ Race初参戦の伊東黎明選手が制した。
クラブマンEXPERTクラスの表彰式。左から2位の神谷裕幸選手、1位の伊東選手、3位の鶴賀義幸選手。
この最終戦を待たずに前戦でチャンピオンを確定させた鶴賀選手は今回3位でレースを終えた。

 プロフェッショナルクラスのチャンピオン候補は、久保凜太郎選手と谷口信輝選手、そして佐々木雅弘選手の3人。久保選手は谷口選手に10.5ポイント、佐々木選手には19ポイントも差があるだけに、圧倒的に有利ではあったが、相手が相手である。ともあれ、ポールポジション獲得で与えられる1ポイントを狙っていくが、3人とも獲得ならず。スポット参戦の坪井翔選手が初ポールを奪い、谷口選手が4番手で、久保選手は9番手、そして佐々木選手が10番手という結果に。

「86/BRZレースは1年ぶりなので、ポッと乗りでそんなにうまく行くわけがないと思いましたが、予選ではうまくスリップストリームを使いながらアタックできて、かなり僅差の中で初めてポールを獲ることができました。本当は富士とか鈴鹿にも出るつもりだったんですが、コロナ禍で出られなかったので、すごく良かったと思います」と坪井選手。2番手には服部尚貴選手、3番手には菅波冬悟選手がつけていた。

 候補3人のうちで最も有利そうなのが谷口選手ながら、「少なくともあとひとつ上げなきゃいけないし、久保選手もポイント圏内にいるから、なかなか厳しい。とりあえず上を目指して頑張ります」と余裕の雰囲気ではない。むしろ久保選手の方が「いつも追い上げる展開なので、ポイントさえ獲れれば大丈夫です」ときっぱり。

 決勝では坪井選手がスタートを決めて、1コーナーのホールショットに成功。これに服部選手、菅波選手が続いて、谷口選手はスタートでのジャンプアップを果たせず。むしろ久保選手が7番手に浮上し、佐々木選手を従える形となっていた。このままのポジションが保たれれば、久保選手のチャンピオンが確定する。なんとしても前に出たい谷口選手ではあったが、服部選手と菅波選手の師弟コンビの壁は厚く、突破は許されず。そんな中、6番手を走行していた車両がエンジントラブルでリタイアしたことから、久保選手はひとつ順位を上げることに。

 普段のレースだったら、さらにポジションを上げようと躍起になっていただろう久保選手だが、今回ばかりはいたって冷静にポジションキープに徹し、そこには背後に佐々木選手がいたという事情もあろうが……。そして6位でゴールの久保選手がチャンピオンを確定。そして、初優勝を坪井選手が上げることとなった。

「スタートがうまく決まって、トップで1コーナーを通過できた時点で、これは勝てるかなと思ったんですけど、ロングも今まで決勝でやったぐらいだったので。序盤のペースが良くて離れていったんですけど、終盤に追いつかれて。でも、この追いつかれ方なら抜かれることはないなって自信を持って走ることもできました。最近、流れが良くなかったんで、取り戻して他のレースでもいい流れをつかみたいと思います」と坪井選手。

 そして初のメジャータイトル確定となった久保選手は、「泣きました。なので、ゆっくり帰ってきて。スタートで佐々木選手に抜かれた時は『やばい』って思ったんですが、落ち着いて対処して前に出られたんで良かったです。ホッとしました、ずっと緊張していたんで。肩の荷が下りましたよ、一個ね。この後、S耐もあるから、また引き締めてやります。これでやっとS耐に集中できます」と素早く気持ちを切り替えていた。S耐のST-4クラスでもポイントリーダー。二冠獲得の可能性もあるだけに、そういつまでも余韻に浸っていられない、という自覚もあったのだろう。

プロフェッショナルクラスはチャンピオン争いを傍目に、スポット参戦した坪井翔選手が初優勝を遂げた。
プロフェッショナルクラスの表彰式。左から2位の服部尚貴選手、1位の坪井選手、3位の菅波冬梧選手。
9番手スタートから徐々にポジションを上げ、6位フィニッシュした久保凛太郎選手がシリーズタイトルを確定。

フォト/遠藤樹弥、吉見幸夫 レポート/はた☆なおゆき、JAFスポーツ編集部

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