こだわりのデザイン、見せてください!

インタビュー カート

2020年11月6日

レーシングカートの楽しみ方は千差万別。思い思いの"個性"を演出しながらレースに臨めば、モチベーションも高まるはず。そんなカーターたちのヘルメットからレーシングカートにいたるまで、趣向を凝らしたデザインやカラーリングに注目してみた。

 レースの目的は、誰より速く走って1等賞を獲ること。それはもちろん当然なのだが、プラスアルファの楽しみも欲しくなるもの。マシンやレーシングスーツを、自分だけのカラーリングやデザインで仕立てれば、サーキットで過ごす時間はもっと楽しくなる。

 そこで、今シーズンの全日本/ジュニアカート選手権で、マシンやスーツにこだわりを持つ選手たちのグラフィック/ファッションを見せてもらった。そこには単なる見た目の楽しみに留まらない、それぞれの思いが込められていた。

【ヘルメット編】
■藤井亮輔選手(ふじいりょうすけ/29歳/TEAMぶるーと) 全日本カート選手権FP-3部門西地域参戦

 頭頂部に勢いのある筆書体で描かれた「天衣無縫」の文字が目を引く、藤井選手のヘルメット。蛍光色を基調としたカラーリングと相まって、大きく文字がペイントされているので、コース外から見ても実によく目立つ。

「ヘルメットに個性を出したいと思って、辞書を引いたりネットで調べたりして、ちょうどいい言葉が見つかりました。『無駄がない』とか『極限の』って意味合いのようです。書体はペイント屋さんでサンプルを見せてもらって、日本っぽく習字のような感じでやってもらいました。このデザインは2個目で、1個目の時は文字が金色。2個目はメッキカラーを入れなかったので、バランスが崩れないよう、あえて黒にしました」

 この文字以外にもこだわりは随所に。「遠くから見ても自分だと分かるように、明るい色を採り入れました。1個目は複雑なデザインにしたら誰が走っているのか分かりづらくなっちゃったので、今度のデザインはシンプルにしました。稲妻のデザインは、1個目を作った時期に大活躍していたフェルナンド・アロンソ選手のヘルメットから真似てみました(笑)」

 ペイントはヘルメットペインターのFujisanD&P製。専業として事業を始める前に塗ってもらったものなので、ペイント料は公開できないそうなのだが、相当安くやってくれたのだという。

横文字のデザインが多い中で、武骨な“天衣無縫”の漢字が強いアクセントとなっている。
「これを被っていると、やっぱり気分が違いますね。愛着があります。作ってもらった時はうれしくて、バイクに乗る時もいつでも被っていました。今後もこのデザインでいきたいと思います」

■岩崎有矢斗選手(いわさきあやと/16歳/TONYKART RACING TEAM JAPAN) 全日本カート選手権OK部門参戦

 最近カート界で流行しているのが、マシンやヘルメットのカラーや柄を、センターラインの左右で変える“左右非対称”のアシンメトリーデザイン。実はこれ、右向きと左向きで見た目の印象がガラリと変わるので、誰が走っているのかを色味で判断している人にとっては、ちょっぴり困りものでもあるのだが……。

 OK部門に今季から参戦している岩崎選手も、このデザインをヘルメットに採り入れているひとりだ。ただし、それは流行に乗ったものというより、尊敬するチームの先輩に倣ったものだった。

「今年の初戦からこのデザインにしています。前のヘルメットは全然違うデザインでした。チームの先輩の高橋悠之選手が先に左右で異なるデザインのヘルメットをかぶっていて、それがカッコよかったので、父親とも話し合って半々にデザインを分けることにしました」と岩崎選手。

 ペイントはレースに関わるデザインを行っているファストルックスに依頼。メインの色を決めて、だいたいの雰囲気を伝えて、あとの細かいところはお任せしたとのこと。特に気に入っているというエアロパーツ周りのラメは、陽光を受けるとキラキラ美しく輝く。背面で羽を広げる女神は、岩崎選手に勝利を運んできてくれるだろうか。

ヘルメット全体に散りばめられているラメ加工がゴージャスな雰囲気を漂わせている。
「出来上がりを見た時は想像以上のものになっていたので、うれしかったですね。見ていて楽しいですし、自分のオーダーで作ってもらったヘルメットですから、走る時の気分も乗ってきます」

【フェアリング編】
■森川貴光選手(もりかわたかみつ/30歳/HIRAI PROJECT Ash) 全日本カート選手権FP-3部門西地域参戦
■舟橋弘典選手(ふなはしひろのり/36歳/HIRAI PROJECT with Ash) 全日本カート選手権FP-3部門西地域参戦

 HIRAI PROJECTは、尊敬を集める平井健司監督の下に、趣味としてカートを楽しみながら高みを目指す人たちが集まったサークルだ。そこに所属する森川選手と舟橋選手のマシンは、遠目にはグレーっぽいカラーリングに見えるのだが、近くでよく見るとたくさんのカートシーンの写真が散りばめられている。2台は形状の異なるフロントゼッケンパネルの部分のみ各々の形状に合わせて変えてあるものの、他は同じデザインだ。

「これはHIRAI PROJECTのメンバーが今までレースに出た時の写真を切り取ったものです。レースではピリピリしがちだけれど、仲間と協力しながら楽しんでやろう、というのが僕たちのスタンス。それをカウルデザインに盛り込みました。だから、できるだけ楽しそうな写真を選んであります」と森川選手。

 その思いは舟橋選手も同じで、「サークル結成以来の思い入れを背負いながら走るので、恥ずかしいレースはできないな、と思います。それに当たり前のことではあるんですが、ぶつけたり止まったりしたらいけない、という気持ちも高まります」

 このカウルステッカーは平井監督が自らデザインして、近所の印刷屋でプリントしてもらったもの。他にもチームブルゾン、ロゴ入りマスクなど、HIRAI PROJECTグッズはどれも平井監督が作っているのだそうだ。こうして“見た目”の部分にも力を注ぐ理由を、平井監督が語ってくれた。

「綺麗で遅いヤツはいるけれど、汚くて速いヤツはいません。綺麗ってことは、マシンであれ何であれ、しっかり気を使っているということ。だから『綺麗にやりましょう』とみんなに言っているんです」

その時々の情景が浮かび上がるような、さまざまな想いが詰まったフェアリングと言える。
「みんなの気持ちを知っていますから、その顔写真があしらったカウルを見るたび、マナーの面も含めて恥ずかしいレースはできないなって思います」と、森川選手と舟橋選手は語る。

■白石麗選手(しらいしうるは/11歳/HRS JAPAN) ジュニアカート選手権FP-Jr Cadets部門西地域参戦
■白石庵選手(しらいしいおり/11歳/HRS JAPAN) ジュニアカート選手権FP-Jr Cadets部門西地域参戦

 FP-Jr Cadets部門西地域に今季開幕戦から参戦している麗選手と、琵琶湖大会がデビュー戦となった庵選手は、双子の兄弟。ふたりのマシンはたくさんの星をあしらった共通のデザインで、色をブルーとレッドで変えてある。実は、昨年の同部門に出場していたふたりの姉、樹望(いつも)選手のマシンもホワイトカラーの同じデザインだった。いわばこれは、白石ファミリーのイメージカラーともいえるデザインなのだ。

 このデザインを考案したのは、メカニックを務める父親の幸生氏。「名前が白石なので、まず樹望のマシンを白にしました。その時の星柄を弟ふたりも引き継いで、双子なので間違われないように色を変えました。今は周りの方々にも、ウチはこのデザインだと認識してもらっていると思います」

 カウルステッカーはD's DESIGN製だ。マシン全体のカラーリング以外にも、白石家のデザインはあちこちにこだわりが満載。マシンに貼られている“identical twins”のステッカーは、一卵性双生児の意味。ヘルメットもマシンと同じデザインで、なおかつふたりの柄が左右対称になっている凝りようだ。

「サイドボックスに入れてある『02』『04』の数字はふたりの誕生日。それでゼッケンも24番と42番を選びました」姉弟3人おそろいのデザインで、家族の結束はさらに強くなっている模様だ。

カラーリングこそ違えど、フェアリングデザインもドライバーも“identical twins”だ。
「星柄がけっこう好きなので、このデザインは気に入っています」と庵選手、「濃い赤色がいい。レースに参戦している時は気持ちが高まります」と麗選手。

【レーシングスーツ編】
■落合蓮音選手(おちあいれおん/11歳/Ash with Hojust) ジュニアカート選手権FP-Jr部門西地域参戦

 カートメーカー・ワークスカラーのレーシングスーツが多数派を占める日本選手権にあって、落合選手のスーツは実に個性的だ。最大の特徴は、背面に大きく描かれたロボットのイラスト。これはランボルギーニ・アヴェンタドールを“トランスフォーマー”化したキャラクターなのだという。

 落合選手のメカニックを務める父親の俊之氏は、昨年のランボルギーニ・スーパートロフェオ・アジアに「チーム和歌山HOJUST RACING」から参戦して、プロアマクラスのチャンピオンに輝いたアマチュアレーサー。そのマシンにも、同じキャラクターが大きく描かれていた。このデザインは、チーム和歌山のイメージグラフィックをベースにした、親子共通のものなのだ。

「前のスーツも基本的に同じデザインだったけれど、色味などを変えてみたらもっとカッコよくなりました。このスーツを着ていると、『俺が一番だ!』って感じで気持ちよく走れます。特にジュニア選手権や鈴鹿選手権では多くの人が見ているので、走りも態度も、サポートしてくださっている会社のイメージが良くなるように心がけています」

 将来はフォーミュラ進出を目指す落合選手。俊之氏によると、チーム和歌山のオーナーにも注目してもらっているとのこと。ゆくゆくはこのデザインで四輪レースを走る落合選手の姿を見られるのかもしれない。

ロボット化したアヴェンタドールのイラストを背中に入れたことで、速さと力強さを感じさせる。
「今のスーツは、腕と脚の部分に炎の柄を加えたところが気に入っています」と、気分を盛り上げてくれるこだわりは細部にまで及ぶ。

■酒井龍太郎選手(さかいりゅうたろう/10歳/ミツサダPWG RACING) ジュニア選手権FP-Jr Cadets部門東地域参戦

 ピンク色がとても印象的な、酒井選手の2020年仕様のレーシングスーツ。とりわけ目を引くのが、腰の部分にハートマークで囲んで描かれた『ママ命』の文字だ。

 母親の邦子氏の「うれしいですけれど、いつまで着てくれるんでしょうね」というつぶやきに、成長期の子供を見守る親心がにじんでいた。ちなみに同じ言葉をプリントしたジャンパーは、もう着てくれなくなったそうだ……。

 このスーツは、コース上で見つけやすいこととチームのイメージカラーに沿っていることをポイントに家族でデザインを決めて、モータースポーツ用品店“リミット”に製作を依頼したオーダーメイド品。背中の龍のイラストは酒井選手の名前から採ったもので、左脚に大きくプリントされた『りゅうたろう』の文字もよく目立つ。

 また、ヘルメットもオリジナリティがたっぷり。背面には昨年イギリスにレース留学した時から日本地図を描き入れ、側面の日の丸模様には家族の写真が透かしで入っている。さらにバイザーには文字が浮き上がる加工が施してあり、ここで大会ごとに異なるメッセージを表示する凝りようだ。

 取材日の酒井選手は、靴下もスーツとおそろいのピンク色。レース本番の日はゲンのいい赤の靴下と決まっているのだが、「履きすぎて穴が空いちゃいました(笑)」とのことだ。

今シーズン一番注目を集めたであろう“ママ命”。オーダーメイドならではの秀逸なデザインだ。
「今年のスーツを初めて見た時は、予想と違っていてうれしかったです。『ママ命』は時々恥ずかしくなるけれど、これのおかげでみんなに覚えてもらえるのはいいなって思います」と酒井選手。

フォト/遠藤樹弥、古閑章郎 レポート/水谷一夫、JAFスポーツ編集部

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