全日本ラリー今季唯一のグラベル、ラリー北海道は新井大輝WRXが連覇!
2020年10月1日
全日本ラリー選手権はシーズン3戦目となるラリー北海道が9月中旬に行われ、最終SSまで白熱した“親子対決”を制した新井大輝組が今季初優勝を果たした。
2020年JAF全日本ラリー選手権第9戦
RALLY HOKKAIDO
開催日:2020年9月12~13日
開催地:北海道
主催:AG.MSC北海道
全日本ラリー選手権は今季初のグラベル戦となるラリー北海道が9月12~13日、北海道十勝地区で開催された。国内屈指の長距離グラベルラリーとして知られるラリー北海道だが、今年は他の全日本戦と同様、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、FIAアジアパシフィックラリー選手権のタイトルを初めて返上し、無観客での開催を決定した。
北愛国交流広場でのセレモニアルスタート&フィニッシュや、陸別サーキットでのギャラリーSSといったお馴染みのイベントも中止となってしまった。来季は再び、昨年までの賑わいが戻ってくることを期待したい。そしてラリーウィーク中は、徹底した新型コロナウイルス感染予防対策が採られた。北愛国や陸別では、入場者全員に検温が実施されたほか、北海道独自である北海道コロナ通知システムへの登録が求められた。
ラリーのスケールもコンパクトなものとなり、恒例だった金曜夜のオープニングステージ、札内スーパーSSも今年は設定されず、2DAYでの開催となった。12日土曜のLEG1では、ラリー北海道のメインエリアである足寄と陸別を結ぶ国道242号線の西方に位置する名物の高速ステージ「ヌプリパケ」と、陸別町の北に位置する「ヤヨイ」ステージを3ループする設定。1ループ目と2ループ目の最後は、無観客ステージとなった「リクベツ・ロング」が2回設定された。
13日日曜のLEG2は、超高速ステージ「パウセカムイ」と、こちらもお馴染みの「オトフケ・リバース」を2ループする設定だ。ヌプリパケとパウセカムイは道幅も広く、どちらかと言えば豪州やニュージーランドのWRCを思わせる高速ステージ。ヤヨイとオトフケリバースは本州と同様の狭い道幅で、中低速のコーナーが多い。そしてリクベツ・ロングは距離が短い割にリタイヤ率が高いことで知られる、なかなかの難ステージだ。SS総距離は107.70kmと従来の2/3程度となったが、どのステージもクルーに高い緊張感を強いるステージと言える。
JN1クラスは前戦優勝の鎌田卓麻/鈴木裕組がSS1ヌプリパケでベストを奪うが、SS2ヤヨイでは新井敏弘/田中直哉組がトップタイムをマークして首位に立ち、NEWステージに強いチャンピオンの面目躍如の走りを見せる。しかしSS3リクベツでは鎌田組が再びベストで応酬し、首位を奪還した。
2ループ目も1ループ目同様、ヌプリパケ、リクベツは鎌田組が、ヤヨイは新井敏弘組が制するが、鎌田組はこのループが終わった時点で新井敏弘組とのリードを7秒まで広げることに成功する。しかし3ループ目に入ると、この2台にしぶとく食らいついていた昨年のこのラリーのウィナー、新井大輝/小坂典嵩組がSS7ヌプリパケでこの日初のベストを奪って2位に浮上。SS8ヤヨイでも連続ベストをマークした。
一方、首位を走っていた鎌田組はSS8で駆動系のトラブルが発生して、新井大輝組に14秒もの遅れを取ってそれまでマージンを吐き出し、3番手まで後退。代わって首位に立った新井大輝組を新井敏弘組が2.1秒差で追う展開で、ラリーを折り返した。鎌田組は首位から8.1秒差で、仕切り直しとなった。
明けたLEG2は、雨の中、スタートした。濡れて難度が上がったSS9オトフケを制したのは新井敏弘組。新井大輝組に0.6秒差まで詰め寄る。しかしオトフケの北約30kmに位置するSS10パウセカムイには雨は届かず、路面はドライ。ここのベストは鎌田組が奪うが、1.7秒差の2位につけた新井大輝組が、父親に0.4秒競り勝ち、1.0秒のマージンを持って残り2本の最終対決に臨んだ。
迎えたSS11オトフケ。2台はまさに限界の走りを見せて、他を圧するが、ベストを奪ったのは新井大輝組。今度は1.9秒の差をつけ、2.9秒のマージンで臨んだ最終のSS12パウセカムイでも再び1.9秒差で父親を下して、勝負は決着。新井大輝組が今季初優勝を飾るとともに、2年連続でラリー北海道を制した。
「距離も長くて、路面も荒れていたり、スムーズだったりとラリー全体を組み立てて走らなければいけないのがラリー北海道の難しさだったんですけど、今年は短縮になって、ひとつのステージが10kmくらいになるとタイヤも持ってくれるので、全ステージ全開の勝負になる。ちょっとでも抑えるとすぐ負ける、というのは分かっていました」と大輝選手。
「ただ久し振りのダートだったので、最初は目がついて行かなかった。大体のペースでは走れるんですが、ギリギリ攻めるとなると、そこが難しかった。でもLEG1の最後の2本は、ここで狙わないと離されると思ったので、リスクMAXで攻めました。ちょっとでもミスったらリタイヤする、くらいのスピードでした。結局、この最後の2本からは、ずっと勝負掛けっ放しで最終SSまで緩められなかった。親父が来ないわけはないですから(笑)」
そのLEG2は性格が異なる2本のステージを走らなければならなかったが、「どっちかにセッティングを振るということはせずに、間を取るというか、自分が乗りやすいセットで走りました。ただLEG1を走って、路面が硬い方がセットが合っている感じがあったので、そこで蓄積できたノウハウでクルマを合わせられたのは大きかった。パウセカムイは特に砂利の下が硬いので、浮き砂利に乗らずに硬い路面を走れば大丈夫だと思っていた」と振り返った。
「2本目のオトフケは1本目で負けていたので、引き分けくらいに持ち込めないと勝てないと思っていたので、そのつもりで攻めました。セット云々より気持ちの勝負。つべこべ言ってる場合じゃなかった」と大輝選手。「最も敵に回したくない人が2秒以内にいつも後方にいたので(笑)、今日は本当に疲れました」と最後は安堵の表情を見せた。
一方、JN2クラスは、前戦ラリー丹後で全日本ラリー舗装初優勝を達成して勢いに乗る上原淳/漆戸あゆみ組が得意のグラベルで序盤から独走。SS5リクベツでは総合5番手のタイムをマークするなど、快調にラリーリードするが、2番手の中平勝也/石川恭啓組に1分のマージンを築いた直後のLEG2、SS11で駆動系トラブルが発生。まさかのリタイヤに終わってしまう。これで勝利は中平組の手に。86に乗り換え、JN2への移籍後、僅か3戦目で全日本初優勝を獲得した。
チームの先輩である鎌田選手に倣って、敢えて一旦、2リッター4WDターボの最速クラスを離れ、ドライビングを鍛えるため、RWDのGT-86でJN2クラスに参戦したという中平選手。「JN1にいたので、パワーには戸惑わないんですが、R3車両の独特の動きにまだ対応できていない。クルマ的には勝負できるポテンシャルがあるのに、今回も道の悪い所、トリッキーな所で上原さんとの経験値の差が出たと思います。ただ、すっきりしない勝ち方ですけど、この初優勝は素直に喜びたい。次はもっと速さを見せられるように、自分を鍛えていきたいです」と振り返った。
JN2同様、波乱の展開となったのがJN3クラス。まだラリーを始めて2年目の大竹直生/藤田めぐみ組がSS1でいきなり2WDトップ、総合でも7位の驚速のタイムをマークして、SS6まで首位を守るという予想外の速さを見せたからだ。しかし大竹組は首位を譲り渡した直後のSS8でコースオフ。戦列を離れた。ディフェンディングチャンピオンの山本悠太/山本磨美組は徐々にペースを上げるものの、リクベツでの遅れが響いて、SS7でようやく大竹組を捉えて首位に浮上。しかしLEG2ではLEG1で築いたマージンを守り切り、曽根崇仁/竹原静香組の追撃を抑えて今季初優勝を飾った。
JN4クラスは香川秀樹/松浦俊朗組がSS1でベストを奪うが、SS2でマシントラブルのため後退。代わって首位に立った小倉雅俊/平山真理組のブーンX4を古川寛/廣田幸子組のスイフトが追う展開に変わる。ヌプリパケ、ヤヨイでは古川組を抑え込んだ小倉組だったが、リクベツでは古川組が断トツのベストを奪って、そのSS6で遂に首位が入れ替わった。
小倉組はLEG2に入ると、雨でスリッピーなオトフケは4WDの強みを生かして古川組を上回り、パワセカムイ1本を残すのみとなった、2度目のオトフケのSS11を終えた時点で2.3秒差まで古川組を追い詰めたが、ドライのパウセカムイでは古川組が譲らず、最後は再びリードを広げてゴール。トータル3.4秒差で、緊迫が続いたバトルを制した。
「今回はレッキした時点で、オトフケとヤヨイは最初から小倉さんには負けると計算していたので、勝てると思ったリクベツで思い描いたマージンを稼げるか、負けるステージでも想定内のタイム差に収められるかの勝負だと思ってました。結果的に、LEG1はそれができたし、今日もオトフケで負けた分をパウセカムイで取り返せばいい、トントンで行ければ勝てる、という作戦通りの展開に持ち込めました」と古川選手は今季初勝利を飾った一戦を振り返った。
「ラリーの組み立てがやっとできるようになったという感じですね(笑)。ただ、絶対、完走しなければならないという中で、最後までバトルをするというのは、やはり、きつかった」と古川選手。一方の小倉選手は、「最後まで攻め切れたラリーでしたが、強いて言うなら、リクベツの最初の舗装区間で古川選手に離されてしまったのが痛かった」と、やや悔しさを滲ませた。
JN5クラスも、JN4クラスそしてJN1クラス同様、最終SSまでもつれる接戦となった。LEG1をトップで折り返したのは小濱勇希/東駿吾組のヤリス。デビュー戦となった前戦ラリー丹後でも速さを垣間見せたが、この日は特に3本のヌプリパケで頭一つ速さを見せて終始、首位をキープした。
しかしLEG2に入るとSS9で小濱ヤリスは制御系のトラブルが発生してタイムダウン。続くSS10パウセカムイでは復調して、2番手で追う大倉聡/豊田耕司組がパンクを喫したこともあって再びその差を広げるが、2度目のオトフケとなるSS11では大倉組に一気に1.8秒差に詰められ、最終SSのパウセカムイでの勝負に持ち込まれた。結果は大倉組が3.3秒上回って逆転。今季初優勝を飾った。小濱組に5.6秒遅れの3位には地元の松倉拓郎/岩淵亜子組が、この日全SSを制した天野智之/井上裕紀子組の猛追を振り切って表彰台の一角をゲットした。
ヤリスの全日本初優勝を逃した小濱選手は、「SS9の道が荒れた区間でトラブルが出てしまったので、再走となるSS11ではトラブルが出ないように抑え過ぎてしまいました。やはり本番の厳しい環境で走らないと分からないことはあると思うので、今回の教訓を次に繋げていきたいです」とリベンジを誓っていた。一方の大倉選手も「たしかにオトフケの2本目はかなり荒れていたので、危ない所は僕らも少し抑えました。よくクルマがよく持ってくれたと思います」とまずはエンジニア、メカニックに感謝した。
「昨日が終わった時点では、今回はヤリスに追いつけないかな、と一瞬、思ったりもしましたが、雨の予報が出ていたのと、パウセカムイはヌプリパケと同じ高速ステージですけど、CVT車には有利なはずだと思っていたので勝機はあると思ってました。勝負が掛かった状況でも不用なリスクは犯さずに、最後までラリーを落ち着いてコントロールできたことが勝ちに繋がったと思います」と振り返った。
JN6クラスでは、今季、圧倒的なスピードを見せている明治慎太郎/里中謙太組のヴィッツが今回もライバルを寄せ付けず、LEG1で早くも1分近いリードを築いて折り返す。LEG2ではペースコントロールの走りを見せて、LEG1のマージンをキープ。今季の全日本ラリー選手権では唯一となる無敵の開幕3連勝を飾った。
また6台がエントリーした国際格式クラスでは、優勝候補筆頭の福永修/齊田美早子組が、期待に違わぬ速さを見せて快勝を飾った。
フォト/加藤和由、中島正義、JAFスポーツ編集部 レポート/JAFスポーツ編集部
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