2020年のWRCが再始動! オイット・タナック選手が母国凱旋勝利、勝田貴元選手は惜しくもリタイア

レポート ラリー

2020年9月9日

今年1月のモナコで開幕しながらも、新型コロナウイルス感染症の影響で3月に開催された第3戦メキシコの後に休止が続いてきた世界ラリー選手権(WRC)。しかしこの9月にはWRCがついに再始動を果たし、WRC初開催となるエストニアで第4戦が行われた。

2020年FIA世界ラリー選手権(WRC)第4戦ラリー・エストニア
開催日:2020年9月4~6日
開催地:エストニア・タルトゥ周辺

SS7でティエリー・ヌーヴィル選手がリアサスを破損しリタイア。代わってチームメイトのオイット・タナック選手が、クレイグ・ブリーン選手と共にラリーをリードする展開に。
WRC初開催のエストニアは、タナック選手にとって優勝は必要条件。「この週末は多くのプレッシャーが襲った」と語りながらも母国イベントで嬉しい凱旋優勝を果たした。

 WRC第4戦ラリー・エストニアのホストタウンは、エストニア第2都市となるタルトゥで、その周辺の丘陵地に計17本のスペシャルステージ(SS)を設定。SSの合計距離は232.64kmと短いものの、いずれもフィンランドのようにハイスピードなグラベルステージで、しかも、フィンランドよりも砂利が多くて滑りやすことから攻略の難しい一戦だ。

 シリーズ再開後の緒戦となるだけに誰が主導権を握るのか注目が集まる中で、幸先の良いスタートを切ったのはTOYOTA GAZOO Racingのセバスチャン・オジェ選手とMスポーツのエサペッカ・ラッピ選手だった。

 今大会は従来に比べて大幅にアイテナリーが短縮され、金曜からラリーがスタート。サービスパークに隣接した1.28kmのオープニングステージでは、トヨタ・ヤリスWRCを駆るオジェ選手とフォード・フィエスタのラッピ選手が同タイムでSS1を制覇した。

 しかし、土曜から始まった本格的なラリーでは、SS1で3番手に着けていた地元ドライバーのオイット・タナック選手が躍進。ヒュンダイi20クーペWRCを駆り、3回のステージウィンを獲得して、デイ2をトップでフィニッシュした。

 トップから11.7秒差の2番手に着けたのはタナック選手のチームメイト、クレイグ・ブリーン選手で、オジェ選手がトップから28.7秒差の3番手でデイ2をフィニッシュ。「午前中は出走順が1番だったにも関わらず、トップに近い位置に着けることができた。しかし、昼のサービスでセットアップを誤ったことで、午後はマシンのフィーリングが良くなかった」とデイ2を振り返る。

 オジェ選手のチームメイト、エルフィン・エバンス選手が4番手に着けたものの、TOYOTA GAZOO Racingの新星、カッレ・ロバンペッラ選手はラジエータ前部に装着されていたパネルをロードセクション後のコントロールエリアで外したことにより、1分間のペナルティを受けて6番手に後退してしまう。

 代わってTOYOTA GAZOO Racing WRCチャレンジプログラムでヤリスWRCを駆る勝田貴元選手が「かなり自信を持ってドライブすることができましたし、ステージを重ねるごとにどんどんフィーリングが良くなってきました」と語るように素晴らしいパフォーマンスを披露。

 勝田選手は「いくつかのステージでは世界最高峰のドライバーであるトヨタのチームメイトに近いタイムを刻むことができました」と語るように、大半のステージで6番手タイムを記録した他、SS5では5番手タイムをマークし、自己最高位となる総合5番手で土曜のデイ2を走り終えた。

 日曜のデイ3はステージの数にして合計6本、走行距離は89.94kmとコンパクトな構成だったが、この日のセカンドステージ、SS13でハプニングが発生した。デイ2で好走を披露した勝田選手がロールオーバーを喫し、そのままリタイアすることになったのだ。

 まさに波乱の展開となる中、首位のタナック選手がクレバーな走りでポジションをキープ。「ヒュンダイでの初優勝を飾ることができて嬉しい。特に僕の母国でのラリーだからね」と語るように2019年のチャンピオン、タナク選手が今季初優勝を獲得した。

 これに続いてブリーン選手が2位に着けたことで、ヒュンダイ勢がワン・ツー・フィニッシュを達成している。

 一方、気になるTOYOTA GAZOO Racing勢は「ポディウムを獲得できたのはチャンピオンシップにとっては良いことです。とはいえ、今週末はさらに良い結果を残すことができたはずなので、少し悔しさを感じています」と複雑な気持ちを語るように、デイ3でも2回のSSウインを獲得したオジェ選手が、トヨタ勢の最上位となる3位でラリーを終えた。

 オジェ選手に続いたのがエバンス選手で「完全に満足できる結果ではありませんが、総合4位、パワーステージで2位を獲得することができました。瞬間的には良いペースで走れたと思いますが、そのペースをコンスタントに保ち続けることができなかった」と語るようにエバンス選手が4位に入賞した。

 また、リタイアした勝田選手に代わって素晴らしい飛躍を見せたのが、パワーステージを含めて3回のステージウィンを獲得して、素晴らしい追走劇を披露したロバンペッラ選手。「不運なことが起こり、僕たちが主役の週末ではありませんでしたが、この週末のペースとドライビングはとても良く本当に満足しています」と、完全燃焼で5位に入賞。

 なお、勝田選手は「日曜は路面の変化が激しく、滑りやすいコンディションでした。僕がクラッシュしたコーナーはペースノートよりも角度がキツかったのですが、それはレッキでの自分の判断ミスです」と語った一方で「チームに申し訳なく思いますが、この週末に得た、多くのポジティブな学びが、将来僕をより強くしてくれると確信しています」とコメント。自身でも手応えを掴んでいるというだけに、今後のさらなる飛躍に期待したい。

TOYOTA GAZOO RacingのWRCチャレンジプログラムで、このエストニアから今季のWRC参戦活動を再開した勝田貴元選手。マニュファク登録勢に割って入る躍進を見せた。
最終日の2本目に行われたSS13でコースオフを喫した勝田選手。それまで首位から約1分差の総合5番手に着けていたが、マシン後部を大破したことでリタイアとなってしまった。

フォト/TOYOTA GAZOO Racing、Hyundai Motorsport GmbH レポート/廣本泉、JAFスポーツ編集部

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