「リターン・トゥ・モータースポーツ」。随時更新されるFIA”活動再開”ガイドライン

FIAからモータースポーツ活動再開に関する「Return to Motor Sport」と題したガイドラインが発行されている。F1開幕を前にした6月10日版、そして6月26日には内容を追加した更新版が公開されている。ここではそのFIAガイドラインの概要を紹介する。

 COVID-19、即ち新型コロナウイルス感染症のパンデミックからモータースポーツの再開へと舵を切ったFIAは5月半ばから複数の文書を発表した。

 5月14日には各国のASN、ACN向けにオンライン講義の形でモータースポーツ再開へ向けて「12のキーアクション」を発表した。これは再開オペレーションへ向けたコンセンサス、地均しであると捉えるべきだろう。

 6月10日には事実上のFIAによる具体的な再開指針と言える「FIA Return to motor sport guidelines」（以下FIAガイドライン）が発表された。

 このFIAガイドラインをレギュレーション的に事後承認するような形で、6月19日には新型コロナウイルス対策に特化した全く新しいレギュレーション「FIA国際モータースポーツ競技規則付則S項（Appendix S）」が追加。FIA世界モータースポーツ評議会（WMSC）の承認を経て正式施行された。

 FIAガイドラインは本体部分60ページ、図版やテンプレート等が14ページに及ぶもので各国ASNやオーガナイザーは事実上、このFIAガイドラインをベースに各々のイベントでの対策を構築するという流れとなっていた。

 このFIAガイドラインの発表から約2週間後の6月26日には、本体部分が7ページほど追加された改訂版「Relaease 2.0」が発表された。この短期間のうちに10%以上もの増ボリュームとなったFIAガイドラインの概略と、新旧版の比較をざっくりと見てゆこう。

 FIAガイドラインの基本構成は、新型コロナウイルスと同感染症についての基礎知識の共有と確認、モータースポーツイベントの開催について必要な感染抑止策をイベント計画、遂行、事後処理について各段階毎、そしてイベントの種類別に解説が行われる……ことが期待されていた。

 しかし、当初の版では「イベントの種類別」という部分が極めて限定されており、FIAガイドラインが直接触れていたのはサーキットレース、しかもスプリントレースのみという暫定的なものなっていた。

 それが今回のRelease 2.0では、初版で触れられていなかった「耐久レースイベント」「クローズド・ロード・イベント」の項目が設けられ、ラリー、ヒルクライムといったイベントに於ける感染抑止と安全確保に関するFIAの提唱する安全基準が明確となった。

 これにより各国ASN、ACN，プロモーターはこうしたイベントの再開へ向けての具体案を策定することがようやく可能となったのだ。

 元々このガイドラインは、オペレーションレベルでの具体的な対策を示したものではなく、実際のイベント開催に先立って、より詳細なオペレーションマニュアルの策定が必要とされていた。

 しかし、初版にはそもそもクローズド・ロード・イベントについての記載がなかったため、オペレーションマニュアル作成の主体である各国ASN、プロモーター等は、これらのカテゴリーにおけるマニュアル策定が困難な状況に置かれていた。

 Release2.0の発表でようやく耐久レース、ラリーイベント等の開催へ向けた準備活動が可能になった、ということになる。

 今回追加されたクローズド・ロード・イベントの項目内の記述で一つ気になる点は、可能であれば走行するステージを減らす、同じステージの複数回使用により走行エリアを狭める、といった施策が推奨されていることだ。

 これにより、秋の開催がアナウンスされているWRC日本ラウンドのステージ構成にどのような影響があるのかが気になるところだ。

 また、FIAガイドライン6月26日版の1週間前に発表・施行されたFIA国際モータースポーツ競技規則S項には「F-1、F-2、F-3のチームとそのステークホルダーの要請によって作成」と明確に記載されており、ラリー等のクローズド・ロード・イベントについての記述はなかった。今後はFIAガイドラインの根拠となる規則の整備が急務とされることになるだろう。

 FIAが打ち出す感染抑止とモータスポーツ再開を目指すこうした施策を、世界各国のASN、ACN、プロモーターが受け入れることで、ようやく世界的規模での再開は本格化するだろう。モータースポーツの徒としてはその日が訪れることを心から願ってやまない。

■FIAガイドライン原典はこちら
「FIA GUIDELINES MITIGATION PLANNING AND RISK ANALYSIS "Return to motor sport" in the context of the COVID-19 Pandemic」

フォト／JAFスポーツ編集部　レポート／JAFスポーツ編集部