世界でモータースポーツ活動再開の動きが加速。各国ASNが再開ガイドラインを公開

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2020年6月3日

世界が経済活動の再開を模索する流れの中、モータースポーツもイベント開催へ向けた動きが垣間見えるようになってきた。巨大感染症禍の影響が強く残る中、モータースポーツはどうなるのか。5月末までに発表された情報から、モータースポーツにおける「アフター・コロナ」を少し想像してみよう。

 世界のモータースポーツはシーズン開幕時期にほぼ全てが停止してしまい、こと国や大陸をまたぐ世界選手権は、開幕戦すら迎えられていないカテゴリーも多いのが現状だ。

 しかし、5月に入ってから、欧州各国の中では、ロックダウンによる感染の抑止から経済活動の再開へと舵を切ったこと等に合わせて、モータースポーツも再開へ向けて、じわりと公式コメントを出し始めた。

 連日報道されている通りドイツではプロサッカーリーグの代表格「ブンデスリーガ」が無観客とは言え本格的にシリーズを再開させ、ドイツ国内でも賛否両論はあるものの概ね好意的に受け入れられている。

 また、北米では、NASCARが5月中旬からシリーズを再開。もともと毎週のように大会が行なわれているNASCARでは、そのスケジュールをさらに詰めており、これまでの遅れを取り戻す勢いで、サポートレースを含めれば、毎日のようにレースが行われている。

 そういった流れを汲むと、モータースポーツの再開も社会的に容認される可能性は高いという判断であろうか、北米以外のエリアでも、各国のASNがモータースポーツ再開に向けたガイドラインを表明し始めている。

 とはいうものの、5月末の時点では、FIAによる活動再開に向けたガイドラインといった方針のアナウンスが為された形跡は見られず、各ASNやシリーズ主催団体が活動再開の見解を示した段階。決定的な対策法が見つかっていない現状を踏まえれば、未だ状況は流動的であることは間違いない。

 まずFIA世界選手権の代表とも言えるフォーミュラ1世界選手権(F1)については、7月上旬のオーストリアGPでシリーズを再開する意向を示しており、開催については「無観客」と「各チーム80名まで」という制限の下で行われる、ということを表明している。

 また、北米ではインディカーシリーズがF1と同様に無観客での開催を予定しており、こちらは6月7日からのシーズン開幕をアナウンス。二輪のMotoGPは7月末の再開を目論んではいるが、こちらのアナウンスは流動性を残したものとなっており、現状では未定とも言える。

 さらに詳細な情報としては、5月18日に公表した英国のASNであるMotorsport UKを皮切りに、ニュージーランドのASNであるMotorsport New Zealand、そして日本のASNであるJAFが5月27日に、オーガナイザーを主な対象とした、詳細な衛生管理についてのガイドラインを発表している。

 これら三者のASNが発信したガイドラインを比べると、共通のコンセプトを読み取ることができる。それは、各国政府や保健機関のガイダンスを大前提とした上で、それぞれのオペレーション上の注意事項を、ある程度の具体性を持って示しているという点だ。

 中でも、Motorsport UKのガイドラインにおいては、総括的な衛生対策とQ&Aに加え、ジャンル毎に細分化し、それぞれのオペレーションの詳細にまで踏み込んだ情報がウェブサイトに公開されている。そのジャンル分けは「レース」「ラリー」「クラブスポーツ」「スピード」「カーティング」となっており、プロフェッショナルの選手権からグラスルーツ競技まで、広範囲に網羅した内容となっている。

 ニュージーランドのものは内容的には英国のものとほぼ同じだが、より政府や保健機関の指示をダイレクトに反映したものとなっており、モータースポーツ毎への具体的な指示といった内容とはやや趣を異にするものの、主催者にとっては十分に有益な情報が詰まっていることに変わりはない。

 日本のガイドラインは、JAFホームページや本ページ内の別記事を参照してもらうとして、各国の対策の詳細を全て紹介するにはスペースが足りないので割愛するが、総じて、基本的なコンセプトは4つに絞れると言えそうだ。ここでは英国の例を抜粋しよう。

 まず第一は「物理的な接触を徹底して廃すること」で、「対面接触」を減らすこと、オンライン会議等を利用すること、車検は宣誓書面による自己申告をベースとすること、受付やライセンスの確認等も事前のオンライン申請で全て行なうこと、といった方法を挙げている。

 第二に、現場でのオペレーションにおいて、シールド(透明な仕切り板等)の設置により飛沫をシャットダウンすることを提案している。これはエントラントとオフィシャル間だけではなく、競技役員の間にも設置すること等が明記されている。

 そして、日本でも定着した「ソーシャルディスタンス」の遵守だ。ドライバーズブリーフィング等もさることながら、オフィシャル同士の距離にも言及。しかし、構造的に混雑するサーキットのコーナーポストについては「配慮が必要」という表現に留まっており、今後の運用で定まってゆく内容なのだろう。

 第三として「接触機会の低減」だ。筆記用具の共用を避ける、エントラントへの物品受渡しの方法(机に置いて相手に取らせる。直接手渡しはしない)、現地での申請書類受渡の全面廃止(オンライン化)といった要素に加えて、定期的かつ徹底した設備の消毒作業、トイレについても消毒剤の設置、水洗による手洗い設備の設置等が謳われている。

 そして最後になるが、第四としては、体調不良者の参加を徹底的に抑止させることが明記されている。体調不良であるにも関わらず出場することがないよう、エントリー費等へ配慮するべきであるといった、一種のインセンティブまで提示されており、これは過去に類を見ない異例の措置であると言えそうだ。

 以上のように、対面接触と、直接間接の手指接触の低減、ソーシャルディスタンスの遵守によってエントラントを含むイベント側の感染拡大を抑止しようという考え方が、英語圏と我が日本のモータースポーツ界で、まず提示されることになった。

 同じ英語圏でも北米シリーズではこうしたガイドラインが対外的には明示されておらず、今のところその存在や内容は不明だが、何らかの対応を考えていることは間違いない。

 各シリーズは活動再開に向けて舵を切った。ただ、各国から示されたガイドラインも、基本的にはモータースポーツ関係者を対象とした内容となっている。再び観客を集め、モータースポーツの興奮を気兼ねなく共有できる日がいち早く訪れることを切に祈りたい。

<リンク>
Motorsport UK Getting Back on Track(英語サイト)
Motorsport New Zealand COVID-19 INFORMATION(英語サイト)

英国のASN、Motorsport UKが5月18日に発表したジャンル別の「リスタート」プラン。
ジャンル別に感染防止対策の落とし込みがなされている他、行動規範も示されている。
ニュージーランドのASN、Motorsport New Zealandが発表しているCOVID-19情報。
スポーツ統括組織である「SPORT NEW ZEALAND」が示す行動規範フローチャート。
JAFが5月27日に発表した「国内モータースポーツ活動再開に係る対応について」には、かなり緻密でイメージしやすい「基本的な感染対策のあり方の例」が示されている。

フォト/JAFスポーツ編集部、Motorsport UK、Motorsport New Zealand レポート/JAFスポーツ編集部

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