だからカートは面白い!【カート基礎知識Part.8】「セッティングはこんなに幅広い!」後編

その他 カート

2020年6月3日

 レーシングカートのセッティングについて紹介する基礎知識の後編は、シート位置とシャシー剛性を決めた後、コースやコンディションなどに合わせて調整していく項目のお話です。ベストなセッティングを求めて、レースの開始を迎えるまでに(迎えた後も)やるべきことは山ほどあるのです。

コースに合わせて“ギヤ比”と“キャブ”をキメる

 カートの駆動システムは、エンジンの横に突き出ているクランクシャフトに取り付けられた“ドライブ(フロント)スプロケット”と呼ばれるギヤと、左右後輪をつなぐリアアクスルに取り付けられた“ドリブン(リア)スプロケット”と呼ばれるギヤ、そして双方のギヤに渡されたチェーンで構成されています。

 このドライブスプロケットとドリブンスプロケットの歯数の比が、“ギヤ比”と呼ばれる大切なセッティング項目。これはコースの特性(低速型か高速型か)によって、だいたい決まってきます。また、レースの勝負ポイントを低速セクションに置くか直線区間に置くかでも、ギヤ比は変わってきます。

 ギヤ比の調節は主に、ドリブンスプロケットを歯数が異なるものに交換することで行います。これは、ドリブンスプロケットの方が歯数が多くて細やかな調節が可能で、交換作業も簡単なためです。ドライバーの腕前が上がって速いスピードでコーナーを回れるようになるにつれて、適合するドリブンスプロケットは小さくなっていく傾向にあることも覚えておいてください。

 キャブレターのセッティングも、速さに大きく影響する項目です。これは、エンジン回転の全域を担うローニードルと、高回転域を担うハイニードルの開度で、燃料と空気のベストな混合比を求めていく作業。大切なのは、エンジン回転がボトムからトップまでスムーズに上がっていくよう、ふたつのニードルをバランスよく調節することです。

 さらに、キャブレターは同じ品番のものであっても、それぞれに個性(個体差)があります。複数のキャブレターを持っている人は、どのキャブレターがその時使うエンジンとの相性がよく、コースやレース戦略にマッチするのかをテストする“キャブレター選び”も、レース前の重要な作業になってきます。

“エア圧”と“トレッド”は大切な調整代

 変更作業が簡単で効果が大きい“タイヤのエア圧”と“トレッド”は、あらかじめかっちり決めておくのではなく、その時々のコンディションなどに応じて随時調整されることが多いセッティング項目です。

 エア圧は、高くすると大きなグリップを得られる反面タイヤの過熱や摩耗が早く訪れ、低くするとグリップが低い反面タイヤの劣化の進行が遅くなる傾向にあります。これはレース戦略に大きく関わってくるもので、レース前半に勝負を懸けるならエア圧は高め、レース後半に勝負を懸けるならエア圧は低めになります。

 ちなみに、超ハイグリップのスペシャルコンパウンドタイヤを使用する全日本カート選手権OK部門では、冷間のエア圧が0.3kg/cm2以下という極めて低い値(トレッド面を押しても空気が入っているかどうか分からないくらい!)だといわれます。

 カートのトレッドは、前後とも変更が可能です。前輪側のトレッドはホイールハブをはさむカラー(スペーサー)をハブの内側と外側で入れ替えることで、後輪側のトレッドはホイールハブをリアアクスル上でスライドさせることで調整できます。傾向としては、トレッドを狭くすると大きなグリップを得られる反面タイヤの路面への引っ掛かりが発生しやすく、広くするとグリップは低い反面マイルドな動きを得られるようになります。

 ウェットコンディションでは、フロントトレッドは最大に広げて前輪のキャスターアクションを大きくすることで回頭性を高め、リアトレッドは最小に狭めてタイヤの食い付きをよくするのが常道とされています。

他にもこんなにたくさんセッティング項目が!

 ここまで紹介した項目以外にも、カートにはセッティングに利用できる箇所がたくさんあります。その中でも、“車高”は変更の効果が大きく表れる項目のひとつ。

 これは多くのシャシーでフロント/リアとも調整が可能です。その効果はシート位置の上下に類似したもので、高くすればコーナーでタイヤにかかる荷重が大きくなり、低くすれば荷重が低下する傾向にあります。また、マシンの姿勢を前下がりにするか前上がりにするかによっても、加減速時のトラクションが違ってきます。

 前輪の“ホイールアライメント”は、回頭性に関わるセッティング項目。現在のシャシーはアライメント調節機構を備えたものが多いのですが、これを調節するとキャスター角とキャンバー角が同時に変わるので、やや知識と経験を要するセッティング作業だといえるでしょう。また、エンジンの排気管とエキスパンションチャンバーをつなぐ“エキゾーストジョイント”は、長さを変えることでエンジンの出力特性が変化します。

 前後編にわたって説明したとおり、カートには非常に多くのセッティング項目があり、ベテランドライバーたちに「やればやるほど難しさが分かってくる」といわしめています。一見シンプルなカートに多くの人が虜になるのは、こんなエンジニアリング面の奥深さも理由のひとつなのでしょう。

フォト/友田宏之 レポート/水谷一夫、JAFスポーツ編集部

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