だからカートは面白い！【カート基礎知識Part.7】「セッティングはこんなに幅広い！」前編

その他カート

2020年5月26日

マシンの潜在能力を100％引き出し、コースやコンディションに合わせて最大の戦闘力を発揮させる“セッティング”は、あらゆるモータースポーツにおいて非常に重要なもの。それはレーシングカートでも同じことです。ただし、カートは「マシンすべてがセッティングアイテム」といっていいほど調整できる項目が多く、そこがカートという競技の奥深い面白さにもなっています。

　前編と後編に分け、そんな“カートのセッティング”について説明していきましょう。前編は、すべてのセッティングの根幹となるふたつの項目のお話です。

カートの動きを決定づける“シート位置”

　一般的なレーシングカートの重量は、マシンとドライバーを合わせて150kg程度。その3分の1以上を占めるドライバーの重さ（つまり重心）がどのタイヤにどうかかるかによって、カートの動きは決定的に左右されます。つまり、ドライバーの着座位置を決めるシートの取り付け位置は、あらゆるセッティングの基軸となるものなのです。

　加えて、シート位置の変更はかなり手間がかかる作業です。そこでカートのセッティングは、まずシート位置をベストな状態に定め、それから他の項目を煮詰めていくのが一般的な手順になっています。言い換えれば、レース中にシート位置を変更するようなら、それはマシンの動きが根本的な問題を抱えている状況だということです。

　シート位置は基本的に、前後に動かせば前輪と後輪の重量配分、高さを変更すればコーナーでタイヤにかかる荷重が変わります。これらは5mmの変更で違いが体感できるほど影響の大きなものです。また、シートの傾きを変えることもよく採られる手法で、近年の全日本カート選手権では、シートの前端を上げて後方へ大きく寝かせるセッティングがひとつの潮流になっています。

　最低重量規定を満たすためのウェイトはシートの背後に取り付けられることが多いのですが、このウェイトを上下に動かすことでも重心を変更できます。さらに、シートの座面や背もたれにウレタンマットなどを敷いて重心を変えることも、簡易的なセッティング手法としてよく行われるものです。

　シートのセッティングについて付け加えれば、シートそのものを剛性や形状の異なるアフターパーツに変更することで、マシン全体の剛性やタイヤへの荷重のかかり方を変更することも可能です。

フレームで、パーツで、マシンの“剛性”を変える！

　車体の剛性もマシンの動きを大きく左右するセッティング項目で、カートではセッティング作業の初めの方に行われることが多いものです。ただし、サスペンション機構を持たずマシン全体のしなりでタイヤの接地性をコントロールするカートでは、シャシー剛性は高ければいいというものではありません。剛性の高さとしなやかさの、ほどよいバランスが重要なのです。

　カートのシャシー剛性は、車体の根幹となるメインフレームの部分だけでなく、それに取り付けられるパーツでも調整することができ、その項目は実に多岐にわたります。

　メインフレームの部分は、その前方に装備されているフロントスタビライザー（脱着・材質変更）、フロアパネル（材質変更）、シートステー（本数の変更）などで剛性を変えることができます。また、メインフレームとリアアクスル（左右の後輪をつなぐドライブシャフト）を結合させる3つのベアリングホルダーのうち、内側にあるひとつを取り外すかボルト固定をフリーにするかで“2ベアリング化”してシャシー後部の剛性を下げる手法も、よく採られるものです。

　メインフレームに取り付けられるパーツによる剛性セッティングでは、リアアクスルが重要なアイテムのひとつ。これを材質や肉厚の異なるものに交換することで、マシン後部の剛性を調節することができます。また、タイヤのホイールやホイールハブも、大切なセッティングアイテム。これらを材質や形状の異なるものに変更することで、タイヤ近辺の剛性が調節可能です。

　カートのシャシー剛性のセッティングは、ただ単純に「硬めるか、柔らかくするか」だけではなく、どの部分を硬くして剛性を担わせ、どの部分を柔らかくしてしなやかに動かすか、といった“マシン全体のバランス”の見極めも大切なのです。

フォト／友田宏之　レポート／水谷一夫、JAFスポーツ編集部