だからカートは面白い!【カート基礎知識Part.6】「カート独自のドライビングテクニック」

その他 カート

2020年5月19日

レーシングカートには、そのメカニズムから来る独自のドライビング技術がいろいろあります。これを知っておけば、カートの走行やレース観戦がぐんと楽しくなりますよ。

実は“曲がりにくい”カートを曲げる「3点走行」

 カートは、駆動輪である左右の後輪が1本の鉄パイプ(リアアクスル)で直結されています。コーナーで左右のタイヤの回転差を吸収したり、トルク配分を行ったりするデファレンシャルギヤのような装置はありません。

 後輪が左右同じだけマシンを前へ押し出すので、マシンは常に真っ直ぐ進もうとします。最速のコーナリングマシンといわれるカートは、実は“曲がりにくい”乗り物なのです。

 では、なぜカートはあれほど俊敏なコーナリングができるのでしょう。その秘密のひとつが「3点走行」です。

 左コーナーの進入を例にとって説明しましょう。ハンドル(ステアリングホイール)を左に切ると、キャスターアクションによって右(アウト側)の前輪が浮き上がります。この状態にブレーキングによる前への荷重移動が加わると、左の前輪と右の後輪を軸にして、浮いた右前輪が沈み、左(イン側)の後輪が浮き上がります。これにはフレームなどのしなりも作用しています。

 両前輪とアウト側後輪の3つのタイヤが接地した、この状態での走行が「3点走行」と呼ばれるもの。イン側後輪の浮き上がりが左右の回転差を吸収し、同時に操舵を受け持つ両前輪が減速Gで強く路面に押しつけられて、カートは極めてクイックに向きを変えるのです。

 コーナー入り口でハンドルを切り込むマシンを後ろから観察すると、イン側の後輪がスッと浮き上がるのが見えるはずです。3点走行は、ブレーキングとステアリングを最適な量とタイミングでシンクロさせることが必要な、繊細なテクニックです。

 グリップが低いタイヤを使うカートでは、イン側後輪が浮き上がるまでいかないこともあるのですが、その場合も3点走行と同じメカニズムでイン側後輪の接地荷重が減ってスリップを起こし、アウト側後輪との回転差を吸収しています。

エンジンを守る「ニードル操作」と「チョーキング」

 レーシングカートのエンジンは時に2万回転近くも回り、高い熱負荷にさらされ続けます。高回転状態を続けて温度が上がったエンジンは、内部パーツの熱膨張や潤滑不足などによって、やがて「熱ダレ」と呼ばれるパワーダウンを起こします。

 さらにその症状が進むと、ピストンリングとシリンダーが固着してパワーダウンが悪化し、最終的には焼き付きを起こしてエンジンが壊れてしまいます。特に熱の放出量が限られている空冷エンジンでは、この危険性は深刻なものです。

 そこでカートのドライバーたちは、熱ダレや焼き付きを避けるための防御策をドライビング中に行っています。そのテクニックを説明しましょう。まず話の前提として、レーシングカートではガソリンとエンジンオイルを混ぜ合わせた“混合ガソリン”を燃料にしていることを覚えておいてください。

 エンジンの前方には、燃料を霧状にしてエンジンに供給するキャブレター(気化器)が着いています。キャブレターが作る霧=混合気の濃さ(燃料と空気の比率)は、回転全域を受け持つローニードルと高回転域を受け持つハイニードルによって調整されます(上級カテゴリー用では3つのニードルを持つキャブレターもあります)。そのニードルの開度は、キャブレターの側面から突き出たつまみによって操作することができます。

 ドライバーは、エンジンの熱によるダメージが周回を重ねて進むにしたがって、走りながらニードルを操作して混合気を濃くしていきます。混合器が濃くなると、燃焼しない“余分な”ガソリンが蒸発してエンジンから気化熱を奪い、冷却を促進。さらに、エンジンオイルの供給量アップで潤滑が増して、発熱を抑えることができるのです。

 ただし、熱ダレを感じてからニードルを開いても、走行中にパワーダウンが直ることはもうありません。熱ダレが始まる前に、それを先読みしながらニードルを適切に開いていくことが大事なのです。

 ニードルが最大のパワーを発揮できる状態より開いている(混合気が濃くなっている)とエンジンの回転は鈍くなるのですが、レース序盤ではそのハンデを承知で早めにニードルを開いてエンジンの発熱をセーブし、レース後半の勝負所でニードルを理想状態まで絞ってフルパワーで戦況を有利に運ぶ、というのもテクニックのひとつです。

 キャブレターのニードル操作は微妙な調整が求められるものなのですが、それより簡単にエンジンの熱ダメージを防ぐテクニックがあります。それが「チョーキング」です。

 エンジンがもっとも危険にさらされるのは、ストレートエンドで最高回転に達した状態から、アクセルを閉じて燃料の供給が最少になる(つまり、気化熱を奪うガソリンと潤滑を担うエンジンオイルの供給が最低量になる)ブレーキングポイント。

 このポイントで、キャブレターの前に装着されているインレットサイレンサー(吸気消音器)の空気取り入れ口を手のひらで一瞬ふさぐことで、一時的に濃い混合気を作って熱ダメージを防止するのがチョーキングです。これを行うとエンジンの回転が落ちるので、チョーキングには減速の効果もあるのです。

フォト/遠藤樹弥 レポート/水谷一夫、JAFスポーツ編集部

<関連リンク>
だからカートは面白い!【カート基礎知識Part.1】「カートってなに?」
だからカートは面白い!【カート基礎知識Part.2】「カートってどんなマシン?」シャシー編
だからカートは面白い!【カート基礎知識Part.3】「カートってどんなマシン?」エンジン&タイヤ編
だからカートは面白い!【カート基礎知識Part.4】「カートのレースはちょっとユニーク」
だからカートは面白い!【カート基礎知識Part.5】「カートレースの“疑問”に答えます!」

ページ
トップへ