だからカートは面白い!【カート基礎知識Part.3】「カートってどんなマシン?」エンジン&タイヤ編

その他 カート

2020年4月27日

 レーシングカート(カート)は純レーシングマシン。すべての部品が“速く走る”というただひとつの目的のために設計され、選ばれています。ところがその根幹となる技術は、モータースポーツが有する“最先端”のイメージとは裏腹に、意外にも旧式のテクノロジーなのです。

2スト形式がカートの理念にベストマッチ

 一般的なカートのエンジンは単気筒で、自動車やバイクではほぼ廃れた2ストローク(2スト/2サイクル)形式を採用しています。これには理由があります。

 同じ内燃機関でも、現在の自動車やバイクで一般的な4ストローク形式に比べて、2ストエンジンは構造が単純で構成部品が少なく、また小さな排気量で大きな出力を発生できます。このため、カートエンジンに求められる“小型・軽量・ハイパワー”という要件に適しているのです。

 また、小さくて部品点数が少ないということは、製造や整備のコストの安さを意味します。これは、参加・活動コストの低さを大きな魅力とするカートにぴったりなのです。加えて、シンプルな構造の2ストエンジンは、プロの技術者でなくとも手を出しやすく、メカ好きなユーザーたちに自分でエンジンを整備したりチューニングしたりする楽しみを提供してきました。

 カートエンジンのメーカーやモデルは多数あるのですが、その一般的な分類として、初・中級者用は“100cc・空冷・ピストンポート(ピストンバルブ)吸気”、中・上級者用は“125cc・水冷・リードバルブ吸気”と覚えておいて差し支えないでしょう(一部例外あり)。

 全日本カート選手権を見てみると、ホビーカーターが多く参戦するFP-3部門では100cc・空冷・ピストンポート吸気のヤマハKT100Sの無改造ワンメイク。ステップアップカテゴリーであるFS-125部門では125cc・水冷・リードバルブ吸気のイアメ・パリラX30の無改造ワンメイク。最高峰のOK部門では125cc・水冷・リードバルブ吸気の公認エンジン(メーカーは自由選択)でチューニング可となっています。

 エンジンの前面に取り付けられるキャブレターは、フロートレスのバタフライバルブ形式が一般的。その前方に装着されるプラスチック製の筒状パーツは、吸気音を抑える騒音対策装備で、インテークサイレンサー(ノイズボックス)と呼ばれます。

 エンジン後方、排気管の先に取り付けられるのはエキスパンションチャンバー。これは排気ポートから出てくる未燃焼ガスをシリンダー内に押し戻して充填効率を上げる部品で、2ストエンジン特有の装備です。

バイアス構造で安価に、しなやかに

 自動車用のタイヤは現在、ほとんどがラジアル構造ものになっています。一方でカート用のタイヤは、空気入りタイヤ誕生時のテクノロジーであるバイアス構造を未だに採用しています。これにも理由があります。

 ひとつは価格の安さ。バイアスタイヤはラジアルタイヤより安価に製造できるため、ローコストで楽しむことを主眼とするカートに合っているのです。かつて国際カートレースでラジアルタイヤが投入されたこともあったのですが、開発競争の激化やコスト高騰の懸念から、間もなく規則で禁止されてしまいました。

 もうひとつは、剛性に起因するもの。バイアスタイヤは一般的にラジアルタイヤより柔軟性が高い特性を持っています。サスペンションを持たないカートでは、メインフレームのしなりに加えて、タイヤの変形もサスペンションの代わりに利用して、グリップやトラクションを得ているのです。

 フォーミュラレースと同様、カート用のタイヤにも、スリックパターンのドライコンディション用タイヤと溝付きパターンのウェットコンディション用タイヤがあります。これはさらに、耐久性が高くてローカルレースなどで多く採用されている通称“SLタイヤ”と、CIK-FIA(国際カート委員会)公認のハイグリップタイヤに大別されます。

 2020年の全日本カート選手権では、FP-3部門でSLタイヤ(ブリヂストン・ドライSL17/ウェットSL94)が、FS-125部門でハイグリップタイヤ(ブリヂストン・ドライYPC/ウェットYPP)がワンメイク指定されています。

 一方、全日本の中で唯一タイヤのメーカーやタイプに指定のないOK部門では、特殊なタイヤが使われています。それは、ひとつの大会だけのために開発された非市販のタイヤです。この“スペシャルタイヤ”と呼ばれるタイヤは、世界でも全日本のOK部門でしか使われていないもの。驚異的なグリップ性能を発揮して、マシンを異次元のコーナリングスピードで走らせます。

 2ストエンジンにバイアスタイヤと聞くと、「なんて古めかしいマシンだろう」と思う方もいることでしょう。しかし、昔ながらのテクノロジーであっても目的に合致したものであれば、それは確かな価値を持ちます。“小型・軽量・高性能・ローコスト”を旨とするカートは、こういった旧来のテクノロジーを、それぞれのメーカーやチューナーたちが最新の技術で磨き上げることで、走る魅力を満載したマシンになっているのです。

フォト/JAFスポーツ編集部 レポート/水谷一夫、JAFスポーツ編集部

<関連リンク>
だからカートは面白い!【カート基礎知識Part.1】「カートってなに?」
だからカートは面白い!【カート基礎知識Part.2】「カートってどんなマシン?」シャシー編

ページ
トップへ