「4駆ターボ」がトヨタから復活!? 報道陣に公開された「GRヤリス」プロトタイプを速攻試乗!

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2019年12月23日

トヨタ自動車が、ヴィッツの後継となる新型ヤリスに対して、その高性能版である「GRヤリス」の国内投入を明らかにした。このたび「GRヤリス」プロトタイプモデルを試乗する機会を得たため、想定スペックと乗り味をスペシャルレポートとしてお届けする。

「GRヤリス」プロトタイプモデルの試乗は、平坦な舗装のクローズドコースで行われた。
2月10日に発売される新型ヤリスは5ドアボディだが「GRヤリス」は3ドアボディを採用。
リアフェンダーは張り出した専用デザイン。ルーフ後端は下方へと大きく落ち込んでいる。

 TOYOTA GAZOO Racing(TGR)が展開するスポーツカーシリーズ「GR」の、GRスープラに続くグローバルモデル第2弾に位置付けられる「GRヤリス」を、トヨタ自動車が2020年の東京オートサロンで世界初公開することを発表した。

 このクルマは3ドアボディをベースに、オーバー250PSの直列3気筒1.6Lターボと、高応答カップリングを組み込んだ4WDシステムを搭載した、いわゆる「テンロク4駆ターボ」のホットハッチ。軽量・高剛性のプラットフォームと高性能パワートレインが組み合わされており、スポーツカーと呼んでもいいパフォーマンスを発揮すると思われる。

 国内ではモータースポーツベース車として長年使用されてきた、ランサー・エボリューションXの生産終了に続き、EJ20型エンジン搭載のWRX STIも国内向け生産が終了となったが、それに代わる存在となりうる高性能ターボ4WDの登場と見ていいだろう。

 この「GRヤリス」は軽量化と空力性能を優先して、国内仕様のカタログモデルにはない3ドアボディを選び、ボンネットやドア、リアハッチにアルミ材、ルーフにはカーボン素材を採用。新開発の1.6Lターボエンジンには、ボールベアリングターボの使用や排気バルブの大径化などにより、軽量化と高出力を高次元で両立していると思われる。

 4WDシステムは、車体の大幅な軽量化を実現させるために、重量が増すセンターデフではなく、応答性の高いカップリングを使用し、前後輪のトルク配分を「アクティブ」に変更できる機能を持たせているという。

 前後のトルク配分は、センターコンソールに置かれたダイヤルスイッチで調整が可能で、前後60対40の「ノーマルモード」、前後30対70の「スポーツモード」、前後50対50の「トラックモード」を選択できるようになっていた。

 今回、この「GRヤリス」のプロトタイプモデルが報道陣向けに公開され、テストコースで試乗する機会が与えられた。あくまでもプロトタイプなので、エンジンや4WDシステム、サスペンションなどはすべて暫定仕様だが、平坦なウェットターマック、そしてフラットダートのテストコースでステアリングを握った印象を報告したい。

 2月10日発売が発表されている新型ヤリスは、新たにTNGAプラットフォームを採用しており、ノーマルモデルでもフットワークの良さが光るコンパクトカーに仕上がっている。このノーマルモデルについては、すでにサーキット走行でその素性の良さは確認していたが、「GRヤリス」はまったく別物のスポーツマシンに変身していた。

 エンジンは直列3気筒のメリットを最大限に生かして一気に回転が上がり、高回転域でもトルクフルかつコントローラブルで緩急自在の走りを堪能できた。

 4WDシステムも各モードを試してみたが、定常円旋回的なコーナリングでは「スポーツモード」が扱いやすく、アンダーステアに苦しむこともなく、クルマの姿勢がうまく作れずラインから外れてしまってもリカバリーしやすかった。一方で「トラックモード」は手ごわく、クルマの姿勢を積極的に作れるスキルを身に付けた人が『タイムを狙う』モードと言えそうだ。

 開発を担当するトヨタ自動車GRプロジェクト推進部主査の齋藤尚彦氏は、

「全日本ラリーやダートトライアル、ジムカーナへの参戦を想定した評価も進めていますが、それだけでなく、高性能ロードゴーイングカーとしてパフォーマンスを楽しんでいただけるクルマとして位置付けています。WRCで活躍するヤリスをイメージしながらドライブする楽しさも提供していきたいですね」

 と語ってくれたが、そんなユーザーにとっては、街乗りを快適にこなせるノーマルモードも欠かせないだろう。

 サスペンションに関しては、今回は平滑な路面の走行のみだったのであまりチェックできなかったが、ややロールを許容しながら路面をとらえて駆動力を生かす方向性が感じられた。ロール速度はしっかり抑えられているので、8の字走行時の揺り返しなどでも収束は良く、ある程度速度を上げても姿勢を乱されずに走ることができた。

 また、サイドブレーキを引いたときにはリアの駆動が切れる機能も備わっており、サイドターンにも対応している。

 一方、ダートコース用のプロトタイプは、ヴィッツのボディに新型のエンジンおよび4WDシステムを搭載した実験車両だったが、その操作性の良さはすぐに実感できた。

 グラベル競技への使用を想定しているということで、前後デフには機械式LSDが組み込まれ、トランスミッションのギヤ比は変更、ファイナルギヤ比も低めに設定されていた。数値などは未公開ながら、よりトラクションを得られるセッティングとされていた。

 ロールケージが組まれたインテリアは、試験車両らしくかなり違う雰囲気だったが、走り出すと浮き砂利が積もったダートでもしっかり加速でき、アクセルを踏んだ状態の姿勢は安定している。そのぶんステアリング操作に集中できるのでコントロールも難しくなく、ややイン側に向けた姿勢を維持することもできた。

 ステアリング操作が遅れてもスピンしにくく、逆にアンダーステアでふくらんでしまってもラインに戻しやすく、このあたりは駆動システムに助けられていることが実感できた。

 4WDモードに関しては、「スポーツモード」なら姿勢制御やリカバリーがしやすいが、「トラックモード」はトラクションを生かした加速は鋭くなるがアンダーステアを出してしまったときのリカバリーは難しくなる。舗装路と同じく「トラックモード」は上級者向けという印象を受けた。

 国内のダートトライアル選手権に参戦している前田蔵人氏もGRプロジェクト推進部主幹として開発に加わっているが、

「ミニサーキットやジムカーナ、ダートトライアルなどで楽しんでもらうにはどうしたらいいか、を考えてセッティングを進めてきました。参加型モータースポーツの素材として使ってほしいですね」

 と嬉しいコメントをしてくれた。トヨタ車ではセリカGT-FOUR以来の4WDターボ搭載のスポーツモデルとなる「GRヤリス」。前出の齋藤氏によれば「少量生産でも、しっかり収益を確保しながら作り続けること」も目標に掲げられているということで、大いに期待できるニューウェポンの登場と見て間違いないだろう。

GAZOO Racing Company GRプロジェクト推進部の齋藤尚彦氏(左)と前田蔵人氏。
東京オートサロンで世界初公開される「GRヤリス」と2月10日に発売される新型ヤリス。
ボンネットと左右ドア、バックドアにはアルミ素材、ルーフにはカーボン素材を奢る。
ハブは5穴で、タイヤは前後225/40ZR18サイズを装着。大型キャリパーが垣間見える。
エンジンはスポーツ専用に新開発された小型軽量の直列3気筒1.6Lターボを横置き搭載。
パーキングブレーキはベース車両の新型ヤリス同様にレバー式を採用していてひと安心。
280km/hまで刻まれた速度計と7000rpm付近からレッドゾーンとなる回転計を装備していた。
吊り下げ式の3ペダルレイアウト。クラッチペダルの左側には大型のフットレストを装備。
トランスミッションは6速MT。シフトの奥にはモードを選べるダイヤルスイッチを配置。
バッテリーはトランクスペースのフロアに搭載。アクセスしやすくメンテナンス性も良好。
ヴィッツボディの試験車両には、グラベル競技を想定したカスタマイズが施されていた。
「GRヤリス」は2020年の東京オートサロンで1月10日(金)に世界初公開される予定だ。

フォト/佐藤靖彦、JAFスポーツ編集部 レポート/田畑修、JAFスポーツ編集部

記事内の車両は発売前のプロトタイプのため、実際に発売される車両とは仕様や数値が異なる可能性があります。

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