セントラルラリー愛知・岐阜2019と一部ステージを共用した、3年目の「L1ラリー」が岐阜県恵那市で開催!

レポート ラリー

2019年11月28日

2017年から『ドライバーは女性限定』のラリーとして年に1回開催されている「L1 RALLY in 恵那」が、今年はセントラルラリー愛知・岐阜2019と同日開催で行われた。岐阜県恵那市の恵那市役所を拠点とし、WRCテストイベントとステージを一部共有する出色のターマックラリーに、27台の参加車両が挑んだ。

「L1 RALLY in 恵那 2019」
開催日:2019年11月9~10日
開催地:岐阜県恵那市周辺
主催:MASC 共催:CMSC岐阜、LUCKSPORT、Love drive

『ドライバーは女性限定』という、日本初を謳う話題のラリーとして2017年にスタートした「L1 RALLY in 恵那」。その名の通り、岐阜県恵那市エリアを走るラリーとして過去2回開催されてきたが、今回は2020年FIA世界ラリー選手権(WRC)日本ラウンド「ラリー・ジャパン」のテストイベント「セントラルラリー愛知・岐阜2019」と同日開催されることになり、今回も大きな注目を浴びることになった。

 L1ラリーは「ドライバーは女性限定とする。ただし、コ・ドライバーは男性でも可とする」と示された参加資格が大きな特徴。これまで国内ラリーでは、女性選手はナビゲーターとしての実績は豊富だが、ドライバーとして脚光を浴びるチャンスがあまりなかった。そして、ラリーだけでなくレースの世界からも参加があり、女性ドライバーが主役になれる希少なラリーとして独特の地位を築いてきた。

 今大会も岐阜県恵那市において開催され、大会のヘッドクオーターは恵那市役所に設置。市役所の敷地をほぼラリーのために貸し出すという全面的な協力体制が敷かれていた。ラリーはレッキやウェルカムパーティを土曜日に行い、本戦は日曜日に行われるという2デイフォーマットが採用された。

 走行ステージは昨年同様に5SS(19.76km)が用意され、今年もオールターマック。昨年から使用されている「根の上高原」4.02kmを3回、セントラルラリーとステージを共用する「明智」3.85kmを2回走る構成となった。「根の上高原」は道幅の広い舗装路で走りやすい印象だったが、今回設定された「明智」は日照の少ない林道を下りで走るステージ。特に今回は、日曜の朝方が真冬並みの寒さに見舞われたことから、10時14分スタートのSS2では、路面状況に不安が残る状況となっていた。

 クラス区分は駆動方式を問わない排気量1500cc上下で区切った「L1-2」と「L1-1」の2クラス。今大会にはL1-2クラスが10台、L1-1クラスには17台の合計27台が集まった。10日(日)の朝8時40分に恵那市役所のセレモニアルゲートを通過してラリーがスタート。SS1「根の上高原」に向かって行った。

 最初のステージで、いきなり他を圧倒する速さを見せたのがL1-2クラスの南美由紀/岡田誠組だった。多くの選手が朝イチということでペースが掴めず、上位タイムが3分20秒台で推移する中、南/岡田組のタイムは3分15秒7。キロ1秒以上速いペースでラリーのオープニングを制してみせたのだ。

 続くSS2「明智」では、文室美代子/加藤昭文組がL1-2クラスのベストを奪取。そして、L1-1クラスでは毛受(めんじょう)広子/中村祐太組が、SS1から連続クラスベストをマーク。その結果、毛受/中村組が南/岡田組を9.3秒引き離して、オーバーオールトップを奪う状況に発展した。

 SS3「根の上高原」では、南/岡田組がSS1での自己タイムを1秒以上更新してL1-2クラス&総合ベストをマーク。L1-1クラスでは毛受/中村組がSS1での自己タイムを約1秒短縮してきたが、スイフトスポーツを駆る若手コンビの永井歩夢/田上大輔組が、L1-1クラスのベストタイムを刻んできた。

 3本を走行した午前中のセクション1終了時では、L1-1クラスの毛受/中村組が総合トップ、L1-2クラストップの南/岡田組が3.5秒差の総合2番手、そして伏兵の永井/田上組がL1-1クラス2番手で、総合では3番手に浮上。総合4番手はCVTのヴィッツを駆るL1-1クラス3番手の洪銘蔚/夷藤新基組だ。

 L1-2クラス首位の南選手は、昼のサービスで午前のステージの印象をこう語った。

 「結構怖いです。根の上高原は昨年も走りましたが、印象が全然違くてかなりスリッパリーでした。今年はタイヤが替わったからかも知れませんが、かなり車速が高くて『こんなところで4速に入るなんて!』って感じでした(笑)。私としては思ったよりスピードが出ている印象で、根の上と明智ではそれぞれ1箇所ずつ危ないところもあったので、何とか帰って来られたという感じです(笑)」。

 そして、L1-1クラス首位にして総合トップを奪った毛受選手は午前中をこう振り返る。

「根の上高原は上りなので……、実は上りが不得手なんです。悔しいですね(笑)。根の上で付いたインテグラとのタイム差は、パワーの違いかなと思ったんですが、SS3では同じクラスのスイフトに負けたんです。それがショックで(笑)。根の上では自分の走りができてなくて、自分が作ったノートに翻弄されてました。もう、根の上は自分の思う走りで行っちゃえば良かったかな……有視界でね。ペースノートにとらわれ過ぎちゃってたかも知れません。対する明智の下りは、ドライ路面で路傍の苔も濡れてなかったから気にせず走れましたし、下りということで気持ちはラクでしたね」。

 総合4番手に付けた、L1-1クラス3番手のミンミンこと洪選手。

「今回はCVTのクルマなので、最初から運転にはちょっと悩んでました。ハイスピードの根の上高原はいい感じで走れましたが、明智のグネグネ下る道は、どのクルマも同じだと思いますが、ブレーキングでクルマとドライバーに負担が掛かるので、結構、緊張しました。でも、今回の自分の走りは80点ぐらい(笑)。もう少し自在に動かせるように、サービスではメカニックさんにセッティングを変えてもらいました。残り2本は突っ込み過ぎず、早めにアクセルを開けられるようにして、皆さんと勝負したいですね」。

 そして、総合3番手に付けた永井/田上組。ドライバーの永井歩夢選手は、昨年まで全日本モトクロスのレディスクラスを戦っていた20歳で、今年からラリーを始めたばかりのルーキーだ。

「今年からラリーを始めて、3月の新城とテイクスラリーに出て、今回でラリーは3回目です。このスイフトスポーツは最近乗り換えたばかりで、それまではCVTのヴィッツでした。MT車でのラリーは今回が始めてです。免許を取ったのは18歳で、スポーツ走行を始めたのも昨年の末ぐらいでした。実は、3歳からモトクロスをしていたので、今まではバイク一辺倒の生活でした。昨年は全日本のレディスクラスでランキング8位まで行ったんですが、今年から4輪の世界に転向したという状況です」。

「ラリーは運転していてとっても楽しいです。ヨコに人間がいるという感覚が新鮮です。道も教えてくれるので、知らないはずなのに知っているような気分になれたりして(笑)。ナビの声はインカムで強制的に耳に入ってくるので、嫌というほど聞こえますし、自分の走りに集中しながらも、ナビの声は別に捉えることが一応できてます。勉強の答え合わせをしているような感じですね(笑)」。

「今回のステージで救いだったのが、『いっぱい曲がっている、しつこいコーナー』がなかったことですね。短いコーナーばかりが続いてましたから、何とか走れた感じです。午前中はハンドルやギヤ操作のミスも結構しているので、午後はそういったミスをなくしていく方向で、タイムを削っていきたいなと思ってます」。

 ランチタイムを含めた昼のサービスを終えた参加車両は、13時30分スタートのSS4「根の上高原」へ移動。残るステージは2本。最終ステージはフィニッシュ付近で大勢の観客が待ち受けるSS5「明智」だ。

 今大会3回目の走行となるSS4「根の上高原」では、自己タイムを再び1秒以上短縮したL1-2クラスの南/岡田組が総合でトップタイムをマーク。そして、約5秒離された2番手には、こちらも再び自己タイムを1秒以上短縮してきた毛受/中村組が付けたかと思いきや、そのタイムをコンマ4秒上回ってきた永井/田上組が総合2番手タイム、L1-1クラスではベストタイムを計測してみせた。

 SS4終了時点で、L1-2クラスの南/岡田組が総合トップを逆転で奪い、毛受/中村組は2.3秒差の総合2番手にドロップ。9.8秒差の総合3番手にはL1-1クラス2番手の永井/田上組が食らい付いている。残すは何が起きるかわからない下りの最終SS5「明智」。オーバーオール首位争いが混戦模様となってきた。

 最終SS5「明智」では、下りを得意とする毛受/中村組が、後続に6秒以上の差を付ける総合トップタイムを計測。そして、総合2番手タイムを叩き出したのはスイフトスポーツを駆るL1-1クラスの湯澤美幸/河西晴雄組だった。L1-2クラスの南/岡田組は、何とトップから17.5秒差の5番手タイムに終わってしまい、L1-2クラスのトップタイムは、SS2に続いて文室/加藤組が計測することになった。

 この結果、南/岡田組を再び逆転した毛受/中村組がオーバーオールトップの座を奪取。ラリー後半で繰り広げられた総合トップを奪い合うシーソーゲームは、毛受/中村組が制することになった。

 ラリーの総合2位は南/岡田組。総合3位は洪/夷藤組、総合4位は湯澤/河西組、総合5位は文室/加藤組、そして総合6位にはヴィッツレースのベテラン選手、みなぴよ選手&武平良介組が入った。そして、L1-2クラスは南/岡田組が優勝。2位は文室/加藤組、3位は古本舞桜/石丸雄大組。L1-1クラスの優勝は毛受/中村組。2位は洪/夷藤組、3位は湯澤/河西組という結果となった。

 期待の若手コンビ永井/田上組は、最終ステージでコースオフ。乗り換えたばかりのスイフトスポーツによる初陣はリタイアに終わってしまった。

 昨年からL1ラリーに参戦して、L1-2クラスで初優勝を飾った南選手は以下のように語った。

「根の上高原は落ち着いて、冷静に走ることができました。最後の明智は……抑えました。もう、何事もなく、完走しようと思ったんです。明智はエスケープのない林道だったので、下りのラリーは怖かったですよ(笑)。根の上高原みたいな広い道を下りで使うのかなと思っていたので、開けてビックリでしたからね。でも、今まで下りの林道を攻める機会もなかったので、怖かったけど楽しかったです」。

「実はダートラをやっていて、始めたのが昨年だったので、今年はJMRC東海シリーズやJAF中部・近畿戦を出られるところを出まくりました。ラリーについては、昨年もこのラリーに出たんですが『獲ってはいけない4位』を獲ってしまったんです。しかも、昨年は根の上高原のヘアピンでスピンをしてしまったんですが、それがなければ、順位が落ちてメダルを逃すこともなかったんですよね」。

「獲ってはいけない4位となったことで、チームのみんなもコドラさんも、複雑な気持ちを抱えたまま1年間を過ごすことになってしまいました。コドラさんに『メダルを獲らせてあげたかった』『力不足でゴメン』などと言わせてしまったことも辛かったんです。私はコドラさんがいなかったら、昨年も今年も完走すらできないレベルだったにも関わらず……。それで、今年こそは二人で勝ちに行きましょうって話して参戦したんです。今回はリベンジ達成です。それがすごく嬉しい! 皆さんに感謝です!」。

 そして、昨年に続くL1-1クラス優勝で、今年は総合トップも奪取した毛受選手はこう語る。

「SS4で総合を逆転されてしまったので、最後に逆転できて『もう、やったあ!』という感じでした。このヴィッツは23万キロの過走行車で、上りでエンジンは吹けなくなるし、至る所がヘロヘロなんですよ。逆転されるのも覚悟はしてたので、とにかく、最後の明智でどこまで行けるかな、という心境でした」。

「最後の明智は『折れない心で頑張った』という感じです(笑)。一箇所大きくヘマをしたけど、それ以外では自分なりに納得した走りができました。ホント楽しくて、林道からギャラリーステージの広い道に入るジャンクションでは、スパーンと走りを繋げられたので、気持ち良かったです(笑)。明智はフィニッシュまでが緩い上り坂なので、そこでいかに速度をキャリーできるかは大切でしたからね」。

「いつもはラリータイヤで出てるんですが、今回はタイヤをアドバンA052に替えてきたんです。このタイヤ選択で『今回は総合を狙ってきたんだな』ってコトがバレちゃいますけど(笑)。実は最後の明智でブレーキの感触がおかしくなっちゃって、例のあの感覚を初めて体感することになったんです。そういう意味では苦戦したラリーでもありました。替えるのはタイヤだけじゃなくて、クルマ全体のバランスを見直さないとダメなんだってコトも学びました。他にも次に繋がる色々なデータが取れた感じです」。

「自分としてはとても楽しいラリーでした。今回はオフィシャルの方々が大変だったと思います。セントラルラリーとの調整もあったでしょうからね。ホント、スムーズにラリーが進行してくれて。途中でラリーが止まっちゃったりすると、気持ちも途切れてしまうので、元に戻すのが大変じゃないですか。そういうことがなかったので、凄いなと思いました。頑張ってくださった関係者の皆さんに感謝ですね」。

 恵那市役所ではセレモニアルフィニッシュが行われ、来年の再会を誓って参加者は家路に就いた。

ラリーのヘッドクオーターは恵那市役所に置かれ、来庁者用駐車場がパルクフェルメとなった。
SS2とSS5「明智」は同日開催されたセントラルラリー愛知・岐阜2019と共用された。明智町内の下りの林道と緩い上りの市道を合わせたステージで、市道部分の特別観戦エリアには多くの観客が詰めかけた。
L1-2クラスは排気量1500ccを超えるRR/RN/RJ/RPN/RF/AE車両が対象。優勝はインテグラの南美由紀/岡田誠組。2位はスイフトスポーツの文室美代子/加藤昭文組、3位は86の古本舞桜/石丸雄大組。
優勝したDC2インテグラを駆る南/岡田組。3回の「根の上高原」ステージで大差を付けた快勝となった。
L1-2クラス優勝の南美由紀選手。「昨年は最後でスピンをやらかしてクラス4位となり、その後の1年間はチームの皆さんに複雑な思いをさせてしまいました。今年はそれがリベンジできました!」と語る。
2位はスイフトスポーツの文室/加藤組。2本の明智ステージではキロ1秒引き離す快走を見せた。
初めて乗るマシンに手こずりながらも、後半でコツを掴んで追い上げた古本/石丸組が3位に入った。
L1-1クラスは排気量1500cc以下のRR/RN/RJ/RPN/RF/AE車両が対象。優勝はヴィッツの毛受広子/中村祐太組。2位はCVTヴィッツの洪銘蔚/夷藤新基組、3位はスイフトスポーツの湯澤美幸/河西晴雄組。
NCP91ヴィッツを駆る毛受/中村組が優勝。下りの明智ではオーバーオール首位のタイムを叩き出した。
L1-1クラスは、初回から参加する毛受(めんじょう)選手が優勝。2017年はクラス2位、昨年はクラス優勝を果たしながらも総合優勝は逃した。そして3度目の今回、念願のクラス優勝&総合トップを獲得!
2位は洪/夷藤組。序盤から上位争いを演じた洪選手は、参戦3回目にして初のシャンパンファイトを体験。
昨年はクラス2位の湯澤選手。今年は洪/夷藤組と僅差の2番手争いを演じたが、惜しくも3位に留まった。
明智町の東方地区、高波川沿いの田畑に特設観戦エリアが設定された明智ステージ。観戦者は明智小学校や明智中学校等に置かれた観戦者用駐車場から、明知鉄道の明智駅等を通過するシャトルバスで入場する。
恵那市の小坂喬峰市長がスタートフラッグを担当。組織委員長を務めた主催MASCの勝田照夫代表がメイン会場での進行を取り仕切っていた。右写真はコース委員長を務めたCMSC岐阜の三枝重光代表。
「0カー」ドライバーは全日本ダートラN1を戦う三枝聖博選手。慣れないBRZながら無事役務を完遂した。
明智ステージでは全日本ダートラSA2の北村和浩選手やPN2三枝光博選手もコースマーシャルとして参加。
L1ラリーではSS内の走りも見られる実況解説付きのライブ中継が行われた。メイン会場の恵那市役所のエントランスと根の上高原サテライト会場には、パブリックビューイングが設けられる充実ぶりだった。
SS2では3番手タイム、そしてSS3とSS4ではクラスベストをマークした永井歩夢/田上大輔組。SS5ではリタイアの憂き目に遭ったが、全日本モトクロス仕込みのセンスが光る永井選手の復活に期待。
大会最後の集合写真撮影で笑い合うL1-1クラス優勝の毛受選手とL1-2クラス優勝の南選手。それぞれが一年間抱いてきた密かな思いを実現できた今大会。両者にとって忘れがたい一戦となったに違いない。

フォト/山中知之、JAFスポーツ編集部 レポート/JAFスポーツ編集部

※掲載内容に誤りがあったため、修正して再公開しました。謹んでお詫び致します。

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