飛騨の山々に守られた伝統のハイランド! GT86のH.コバライネンが全日本ラリー初優勝!!

レポート ラリー

2019年10月17日

岐阜県高山市周辺で開催されたJAF全日本ラリー選手権第9戦。台風19号の影響で土曜の行程が一部短縮されたが、天候が回復した日曜に競技を再開。第47回を数える伝統のハイランドマスターズは今季の大一番となった。無差別級バトルとなっているJN2では、H.コバライネン/北川紗衣組がFIA R車両のGT86 CS-R3で全日本初優勝を獲得した!

2019年JAF全日本ラリー選手権第9戦
「第47回M.C.S.Cラリーハイランドマスターズ2019 supported by Sammy」

開催日:2019年10月11~13日
開催地:岐阜県高山市周辺
主催:M.C.S.C.

 全10戦を予定していた2019年JAF全日本ラリー選手権の第9戦が、岐阜県高山市の「モンデウス飛騨位山スキー場」を拠点に開催された。ラリーウィークには台風19号が日本列島に直撃する予報だったため開催が危ぶまれたが、大会は予定通りスタートすることになった。

 ラリーフォーマットは、「ひだ舟山スノーリゾートアルコピア」に設定されたギャラリーステージを除いてはオールターマック路面。2つのレグに、スペシャルステージ(SS)が12本用意され、SS総距離は73.46kmを予定していた。

 レグ1のステージは、9.57kmの「あたがす」と6.19kmの「牛牧上り」、6.11kmで一部がギャラリーステージの「アルコピア-無数河」の3本。レグ2は「駄吉」の代替ステージとなった3.48kmの「トヤ峠」、5.32kmの「大山線」、レグ1の逆走となる6.06km「無数河-アルコピア」の3本。それぞれを2ループするアイテナリーとなっていた。

 雨が降るセレモニアルスタートを終えたマシンは、レグ1前半の3本のステージに向かった。しかし、SS1でいきなり波乱が起きる。勝田範彦/石田裕一組(ラックSTI名古屋スバルDL WRX)が、滑る路面に足を取られて橋の欄干にヒット。そのままリタイアしてしまったのだ。

 ウェット路面の3ステージを終えた時点では、JN1は新井敏弘/田中直哉組(富士スバルAMS WRX STI)がリード。しかし、新井大輝/小坂典崇組(ADVAN KYB AMS WRX)が6.8秒差、奴田原文雄/佐藤忠宜組(ADVAN-PIAAランサー)は僅差の3番手に付けているため、第9戦におけるJN1のタイトル争いは、この3組に絞られる様相だ。

 レグ1のJN3は、昨年のチャンピオン長﨑雅志/秋田典昭組(名古屋トヨペットNAVUL 86)がトップ。4.1秒差に山口清司/竹原静香組(jmsエナペタルADVAN久與86)が付け、3番手には何と、レーシングドライバーにして今回ラリー初挑戦となった久保凜太郎/高橋芙悠組(RECARO ARAIm RIN BRZ)が並んだ。

 JN5のレグ1は、すでにタイトルを確定させている天野智之/井上裕紀子組(豊田自動織機・DL・ヴィッツ)から、ナビゲーターを塩田卓史にスイッチして今回も快走。2番手には小川剛/藤田めぐみ組(itzz ADVAN ANフィット)、3番手には岡田孝一/小林剛組(キーストーンナビゲーターDLデミオ)が付けた。

 JN6は、大倉聡/豊田耕司組(アイシンAW Vitz CVT)すでにタイトルを確定させているが、SS1をトップタイムで折り返した後に電気系トラブルでスローダウン。そのままレグ離脱という事態となった。そこでトップに立ったのは伊藤隆晃/大高徹也組(PD YHノートe-POWERニスモS)。モータージャーナリストの清水和夫/高波陽二組(頑固一徹CVTヴィッツ)が2番手、中西昌人/福井林賢組(YH・WM・KYB・SPMくまもんRX8)が3番手に付けていた。

 今シーズンのJN2では、すでに眞貝知志(TGR Vitz GRMN Rally)がドライバータイトルを確定させているが、ナビゲーターの安藤裕一は、このラリーに漆戸あゆみが参戦しなかったことでタイトルが確定する。

 その喜びもつかの間、FIA R車両のGT86 CS-R3を駆るヘイキ・コバライネン/北川紗衣組(AICELLOラックDL速心GT86R3)と眞貝/安藤組が、レグ1序盤から火花を散らす展開。3ステージを終えた時点では、何と両者が同タイムで並ぶ大接戦となっていた。

 午前の林道セクションでは予想外に雨量が少なかったようだが、昼過ぎには飛騨地方でも風が強まるなど天候が悪化してきた。これらの状況を受けて、主催者は午前中の走行とサービスを終えた時点で残るセクション2のキャンセルを決定。リグループをパルクフェルメとし、天候回復が予報されるレグ2から再開予定であることを公式通知した。

難しい路面でFIA R車両のGT86 R3を操り、8ステージベストを奪ったH.コバライネン/北川紗衣組が優勝。

 今シーズンのコバライネン/北川組は、全日本ジムカーナドライバー・牧野タイソンとしても知られるチーム代表・牧野太宣氏が率いる新体制で全日本ラリーJN2に挑んでいた。これまでグラベル戦である第6戦北海道と第7戦横手で2位を獲得しており、2016年以来スポット参戦を続けているコバライネン/北川組にとっても、全日本ラリーにおける初勝利への期待が高まっていた。

 懸案の台風19号は、夜半にかけて関東地方を通過した。そして、主催者により倒木などの処理が行われたことでレグ2が再開されることになった。早朝の飛騨地方は、台風一過とは言い難い厚い雲に覆われていたが、時間を追うごとに天候が回復。時折陽が差すコンディションとなり、路面も午後にかけてドライターマックへと変化していった。しかし、濡れ落ち葉が溜まる箇所もあったため、序盤は慎重な走りに徹する必要があった。

 ところが、コバライネン/北川組は、狭くツイスティなSS7「トヤ峠」、そして高速ステージのSS8「大山線」で総合8番手に食い込むクラスベストをマーク。そして、続くSS9「無数河-アルコピア」では、今回のステージの中で最も滑りやすい路面だったにも関わらず、総合4番手タイムを叩き出す激走を見せた。

 眞貝/安藤組も序盤は何とか食らい付いたものの、SS9の結果でコバライネン/北川組に13秒6もの差が付いてしまった。「すごく難しい路面だったので、思わず『完走』の2文字が頭に浮かびましたよね。自分に言い聞かせるくらい(笑)。我慢しちゃってる感じですね。同じ条件での競争になるとペースに差があることが分かっているので、ある一定以上の状況になっちゃうと、追っても仕方がないかなと思ってます」とは眞貝。

 そして後半のループでもコバライネン/北川組は手綱を緩めない。SS10「トヤ峠」では総合7番手、SS11「大山線」では総合6番手、最終のSS12「無数河-アルコピア」では総合5番手と驚異的なペースで快走。結局、全9ステージ中、8本でベストタイムを奪ったコバライネン/北川組が全日本初優勝。難しい路面でこそ速さを見せて他を圧倒する『フライング・フィン』たる堂々の優勝を飾った。

「もちろん、どのラリーでも改善を重ねて来てたし、今回のラリーは、特に今日は昨日に比べて状況も良かったから、昨日のハードな状況に比べればイージーだった。今日はとてもいい日だったよ。午後のステージはドライコンディションになって、よりハードにプッシュできた。フィーリングも良かったよね」。

「ホント、昨日はアタックできないくらいの状況で、とっても危険でスリッパリーだった。今日はドライでアタックできたので、これだけのギャップを築くことができたんだ。眞貝サンも速いドライバーだから、昨日は差を付けることができなくて僅差になったんだ。今回は優勝が目標だった。クルマもチームもよく機能してくれた。特にハイスピードステージでが良かったから、いいフィーリングで走れたよね」。

 とはコバライネン。次回の参戦は11月のセントラルラリー愛知・岐阜2019を予定しているという。

スーパーGTでおなじみのH.コバライネンが全日本ラリー初優勝。国内では専属ナビを務める北川も感無量。
コバライネンは、最終サービスでチーム代表の牧野太宣氏とラックの勝田照夫氏と初勝利を分かち合った。
JN2タイトルを決めている眞貝知志と、今大会でナビゲータータイトルが確定した安藤裕一。今大会は2位。
レクサスRC Fで全日本ラリーに挑む石井宏尚/寺田昌弘組がマシンのテールを壊しながらもJN2で3位入賞!

 3人によるタイトル争いが白熱するJN1は、レグ2では新井大輝/小高組が連続ベストをマークして新井敏弘/田中組に迫ったが、SS9では痛恨のスピン。代わりにSS9では奴田原/佐藤組が驚愕の速さを見せて、トップの新井敏弘/田中組に1.7秒差まで詰め寄ってきた。そして、後半のループではドライ路面に向けたセットアップが裏目に出て新井敏弘/田中組は攻めきれない状況。序盤ではコースオフも喫してしまい、奴田原/佐藤組に11.1秒差を付けられる逆転を許してしまう。最終のSS12では新井敏弘/田中組に2.5秒差を付けてフィニッシュした奴田原/佐藤組が優勝。後半4本のステージでベストを奪った、見事な逆転勝利となった。

「昨日のウェット路面ではイマイチだったセッティングが、乾き出してきたドライ路面にはうまく合ったので、タイヤがうまく使える状況になったね。それでもハンドルを切らないようにして、タイヤはいたわりながら走るようにはしてたんだ。午後のループの1本目で新井が飛び出してたから、その辺りからツキが回ってきたね。舗装ではクルマは仕上がってたから、今回も調子良く走れたね感じかな。いやー、ベストタイムが獲れなくなってきたら引退しようと思ってたんだけど、まだイケそうだから止められないね(笑)」。

 とは奴田原。対する新井敏弘は「1回コースアウトしちゃって、完全に落ちちゃったから、道に戻れてホントに良かったよ。でも、ドライ路面になったからといって、タイヤに合わせてセットアップを変えちゃったのがマズかったかもしれない」と反省の弁。そして新井大輝は「すべてはあのスピン。それが最後まで響いた感じでしたね。今回はVABで初めてのターマックだったので、どの位置でフィニッシュできるかも分かりませんでした。そういう状況で表彰台に上がれたのが自分としては良かったですね。今回は初めてのクルマ、初めてのタイヤ、しかも台風の中。今回はすべてが手探りでしたね……」とうなだれた。

レグ1では首位で折り返した新井敏弘/田中直哉組に、4.4秒差を付けられていた奴田原文雄/佐藤忠宜組。
再開されたレグ2から怒涛の追い上げを開始することになった奴田原文雄。4ステージでベストを奪って逆転!
新井大輝と新井敏弘。親子ワンツーで折り返したレグ2では、互いのミスが影響して勝利を逃すことになった。
勝田範彦/石田裕一組は何とSS1でリタイアの憂き目に。これでJN1のタイトル争いから脱落することに……。

 JN3は長崎/秋田組がトップで折り返したが、ドライ傾向になったレグ2の路面ではスポット参戦の竹内源樹/渡部弘樹組(ADVAN CUSCO BRZ)が2連続ベストで気を吐いた。しかし、午前のループを終えると、クラス総合では長崎/秋田組と山口/竹原組、そして山本/山本組がコンマ差で並ぶ状況となっていた。

 竹内/渡部組は後半のループでも2連続ベストをマークする。そしてアドバン&ダンロップ勢に対して、希少なブリヂストンユーザーとして参戦した久保/高橋組がアタックを開始。SS11では2番手タイム、そして「サミー賞」が懸かった最終SS12では、何と総合8番手のJN3クラスベストタイムをマークしてみせた。全日本初参戦にして初ベスト、そしてサミー賞をしっかり獲って帰った久保。最終成績はクラス4位だったが、現役レーシングドライバーが大きな爪痕を残していった。

 JN3の首位争いは、山口/竹原組がSS10「トヤ峠」で2番手タイムをマークしてトップに浮上すると、SS11とSS12でもライバルを押さえてトップフィニッシュ。山本/山本組に1.8秒差を付けた山口/竹原組が優勝したかに思われた。しかし、セレモニアルフィニッシュを終えた後、暫定結果で10秒のペナルティ加算が判明。そのまま正式結果となり、第9戦の優勝は山本/山本組というリザルトとなった。

レグ1は長﨑雅志が首位で折り返したが、レグ2では山口清司と山本悠太を加えた三つ巴のバトルに発展。
無数河-アルコピアで驚愕のベストを叩き出した山本悠太/山本磨美組がJN3の2番手でゴールしたが……。
山口清司/竹原静香組のペナルティにより第9戦の勝者は山本/山本組。「締まりのない勝利です……」とは山本悠太。
新井大輝と同世代のレーシングドライバー久保凛太郎が、BRZを製作して全日本ラリーJN3に初挑戦。無数河-アルコピアでは、あわやクラッシュの場面もあったが、最終SS12では堂々のクラスベストを計測して「サミー賞」をゲット。
2015年の第2戦で全日本ラリーに初挑戦したレーシングドライバー織戸学がラリーに帰ってきた。「今回は生還することが第一目標。心を入れ替えました」と言いつつも、SS2では3番手タイムを計測して存在感を示した。
JN3にスポット参戦する竹内源樹/渡部弘樹組が、ドライのレグ2では4ステージでベストタイムを計測。
SS1では2番手、SS7では3番手タイムをマークしたJN3西郷匡瑛/大倉瞳組。悔しいクラス5位に終わる。

 JN5は、全日本ナビゲーター育成のため井上裕紀子から塩田卓史に変更して挑んでいる天野智之が今大会も快走した。しかし、レグ2オープニングのSS7で何とスピン。転回に手間取り大きくタイムをロスしてしまう。それでも天野/塩田組はクラス首位の座は堅守。塩田ナビを渋谷の表彰式に送ることに成功している。

 JN6は、車両トラブルに見舞われた大倉/豊田組がレグ2でデイポイント獲得とテストのため復活。ここで、レグ1をトップで折り返した伊藤/大高組とのバトルが勃発。トップタイムを奪い合うシーソーゲームとなったが、意地を見せた伊藤/大高組が2本のベストを奪ってトップフィニッシュ。ノートe-POWERニスモSに全日本初勝利をもたらした。

 なお、今大会のJN4は、関根正人/草加浩平組(KYB DUNLOPスイフト)の不参加によりクラス不成立。これにより草加がナビゲーターチャンピオンを確定させている。そして、残る参加者はシリーズポイントが成立最上位のJN1に計上される形で参戦。古川寛/大久保叡組がJN1で8位の3ポイントを獲得している。

レグ2では狭い林道でスピン&ストップを喫しながらも、JN5天野智之/塩田卓史組は首位を堅守し続けた。
「ナビの塩田選手を今年のJAF表彰式に上げたい」と意気込む天野は、後続に1分以上の差を付けて優勝を飾る。
SS2から一度も首位を譲らずノートe-POWERニスモSに全日本初優勝をもたらしたJN6伊藤隆晃/大高徹也組。
「回生を効かせながらの走りはなかなか難しいですね。少し離された部分はきっちり取り返します」とは伊藤。
CVT車両でJN6を戦う清水和夫/高波陽二組はSS8「大山線」でベストタイムをマーク。「頑張って少しアドレナリンを出してみたよ」と笑う清水だったが、かつてのラリー現役時代を彷彿とさせる快走を披露した。
今大会のJN4は不成立となったが、出走した古川寛/大久保叡組が成立最上位のJN1で3ポイントを獲得した。
台風19号の影響により、12日(土)に予定していたレグ1のセクション2がキャンセルとなった。

 なお、2019年10月16日に、2019年JAF全日本ラリー選手権第10戦開催中止の公示がなされ、10月31日~11月3日に開催を予定していた「MSCCラリー in ふくしま2019」の開催中止が明らかになった。これにより、全日本ラリー選手権の2019年シリーズは、第9戦岐阜大会をもって終了となることになった。

 開催中止の経緯については、マツダスポーツカークラブ(MSCC)は以下のような声明を発している。

「MSCCラリー in ふくしま2019は、開催日程10月31日(金)~11月3日(日)の間、福島県いわき市小名浜アクアマリーンパーク内イベント広場を起点に、いわき市内の林道、東白川郡鮫川村の村道を使用した競技コースで設定してまいりました。

 いわき市内の競技コースとして使用予定の林道(長草線/萱山線/日渡高野線/鶴石山線/椚合折松線/西根線)は、9月9日の台風15号による大雨により、大規模な洗堀が生じ、いわき市と共に路面補修を実施する計画で進めて参りましたが、10月12日~13日の台風19号の大雨により、さらに路面洗堀が拡大し、又一部では路肩崩壊等も発生していると思われる状況になっています。

 現在、林道に接続する国道49号線や県道135号線もいわき市三和地区で通行止め(路肩崩落)となり、リエゾン区間を含め競技コースで使用する林道へも立入れない状況です。また、林道より一般道の補修等が優先となるため、林道補修が開催期日迄に完了する目途が立たない状況です。

 これらの状況から、当クラブとしてはラリー開催は困難と判断し、開催を中止いたします」。

これらの決定により2019年のJAF全日本ラリー選手権は、第9戦岐阜大会がシリーズ最終戦となった。
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